第二十話 花火

夏の終わりに、バンドメンバーで花火をしようという話になった。いい年をしたおじさん二人と成人済みの美容師が、現役女子大生よりはしゃいでいる。「打ち上げは最近、規制が厳しくてね。でも、これならいいでしょ。…

最終話 心の栞

ライブの出演順が近づくにつれ、真弓の緊張はマックスに達しようとしていた。明らかに顔がひきつっている真弓を見て、舞台袖でハルコが「大丈夫?」と声をかけるが、真弓は胸に手を合わせて微動だにしない。 涼介も…

第二十二話 りゅうこつ座

愛した人のことなら、誰よりも知っているつもりだった。ずっとずっと、「見守って」きたのだから。秋子が熱を出した時などには、心を痛めてそばに漂っていた。何もできない自分の無力さを呪った。 何度か、彼は悪霊…

第十五話 面影

「これは……」 真弓の問いに、中野は意を決して答えた。 「僕の祖母だよ。『秋子』さんだ」 そう答えた。真弓は驚きを隠せなかった。 「私に、そっくり……」 「だからたよ」 「え?」 中野は、もがく彰の方…

第十四話 影

中野は驚いて、また内心焦ってもいた。彰のこんな姿を見られたら、きっと真弓は失望する。そして『アリスの栞』を辞めてしまう。そんなことを考えたからだ。 だから、至って平静を装って、中野は真弓に言った。 「…

第十七話 面影

彰さん、私と名前の響きが似ていますね。これもご縁と感じています。そんなことをここにしたためても、あなたへの想いが募るばかりでつらいのです。私は元気です。本当ですよ。 庭に植えたラナンキュラスが咲きまし…

第二十一話 決意と願い

「真弓、真弓ってば」 授業が終わってもボーッと前を見つめている真弓に対し、香織は心配そうに声をかけた。 「大丈夫? ここんとこ、全然元気ないじゃん。バイト、疲れてんの?」 「いや……」 真弓は上の空で…

第二十三話 二番目

「真弓、伝えたいことって?」 彰のストレートな問いに、真弓はまっすぐ彼を見た。 「私、彰さんが好きです。好きなんです」 「………」 「好きにならせてくれて、ありがとうございます」 「……え?」 この告…

第十三話 存在確率

「彰、大丈夫か」 中野は彰を落ち着かせようと静かに声をかける。涼介は驚いて、「何か、あったのか?」と言うが、しかしなおも彰は取り乱して、いつもよりも低い声で、「春の日に、薄桃色の女が一人、此岸で照れた…

第十一話 パセリ

中野は、真弓に優しく語りかけた。 「真弓ちゃんさ」 「はい」 「恋、してるんだね」 「へっ!?」 意外な言葉に、真弓は首を横にぶんぶんと振る。追い討ちをかけるように、その横で腕組みをしていた彰が、 「…