やせがまん モンブランまで敵とする 口笛を聞いてくれるよ秋の雨  もうドアを閉じてしまうね吾亦紅  突き詰めて結ぶりんどうの紫  お願いよ海猫帰るまでここに  さよならがなぜに尊い藍の花 愚かさに輪をかけてゆく夕化粧  …

味覚

寝過ごして出会う高尾の山紅葉 台風はため息までも奪ったか 生秋刀魚 次会う時が百年目 銀杏が隣で爆ぜて緩む頬 焼き鳥が旨いお店の名が花鶏 秋桜と生き急ぐのを競いあう 冬支度 母となれない虚しさと

BCC: I love everything except “you“

なぜかしらあなたは私にあまねく了解可能な理由の明示を迫ってくる。そんなものは仮に存在してもおおむね嘘なので「冬か来る前にあなたへ手紙を宛てるんです、奥多摩の小さな美術館の隅に飾ってもらえるよう」と柔らかく抵抗すると、あな…

アフタヌーンティー

悲しい時ではなくて 嬉しい時に叫びたい 嫌な時には嫌なんだと 嬉しい時には嬉しいと 心のままにころころと 幼いころなら全身で伝えることができたことを 臆病さの染みた鈍色の瞳が拒絶してしまうから 私はこのごろは鏡を見ること…

最終話 花飾り

彼はまるで宣言するように言った。 「本当は僕には、人を愛する資格なんてないのかもしれない」 「どうしてそう思うの?」 私がストレートにそう問うと、彼は一瞬だけ口ごもってから、 「……笑わない?」 私は真剣に頷いた。 「笑…

第十八話 ワンピース

夜の新宿で待ち合わせた。あの日と同じ、霧雨だった。 東口のアルタ前で春色のワンピースを着て、歩きやすいようにヒールの低めのパンプスを履いて、緑色の傘をさして立っていた。 カバンには、先日彼が残した一枚のメモ帳が入っている…

第十七話 メモ帳

あれから、彼は無難な言葉ばかり並べ立てて、私に努めて優しく接した。わさびとソースで汚れたレンジの掃除までしてくれた。 私といえば、思い出したように熱が上がってきて、ベッドに突っ伏してしまったのだが、そんな私を彼は介抱して…

第十六話 ミルフィーユ

待ってたよ、疲れた? そう言いかけた私をさておいて、彼はなんの躊躇もなく私の家に入ってきた。 「ちゃんと食べてる? 暖かくして、睡眠もしっかりとらないと」 「……そうだね」 まるで、昔からそうであったかのようにごく自然に…

第十五話 お掃除

「風邪ですね。気温のアップダウンが激しいので、気をつけてください。漢方だけ出しておきます」 医師にそう言われて、クリニックでは、葛根湯だけ処方された。平日に仕事を休むほんのりとした罪悪感もあってか、私の胸中は終始ざわつい…

第十四話 操作ミス

笹塚駅からの帰り、彼と二人、列車に乗った。ガタゴトと揺れる車内を、彼と手を繋いでいた。バラの花束をもう片手に携えた私は、はたから見ればそれはもう幸せに映っただろう。 暗闇の中を走る列車の中で、彼が静かに口を開いた。 「1…