PHRASE 14 喫茶店

結局、何度かけても携帯電話は繋がらない。俊一は一旦家に戻って、荷物を置くことにした。何の連絡も無しに帰りが遅くなるのは母親に悪い。気持ちが急いているせいか、ややスピード違反をしながら道路を走らせた。赤…

PHRASE 17 紅涙

「征二、やめて、お願い」 ユイは突然の出来事に、ひきつった表情を隠せない。涙すら出ない。 「赤い目だ!」 征二は不可思議なことを、不可解な行動と共に言う。 「お前らの目が赤いのが何よりの証拠じゃないか…

PHRASE 6 December 2006

数百年前の予言者の偉大なる予言があっさり外れて、世界に「新世紀」が訪れてから数年。だが、時代錯誤な妄想は日常に潜んでいた。 真っ赤な眼をした天使達が街に降りてくる。羽根をばたつかせながら、笑い声をあげ…

PHRASE 3 雨

雨が降り出した。空はどんよりと、朝だというのに薄暗い。ユイは地面に散らばったビーズをかき集め、エプロンのポケットにつめた。カンカン、と無機質な音を立てて階段を登って部屋に入ると、アパートの狭いリビング…

PHRASE 7 忘れてください

ナイフを、持っていた? 「まさか」 征二の兄、俊一は直感した。 「あれ、よく見るとお兄ちゃんじゃないね。でも、そっくり」 夏江は俊一に歩み寄ると、 「ねぇ、お兄ちゃんのお友達?」 「夏江、失礼でしょ、…

PHRASE 2 逃走

ユイは力を振り絞って征二の腕から逃れようとした。しかし、もがけばもがくほど、征二のユイを抱きしめる力が強くなる。 「苦しいよ、征二、離して」 「ユイ、聞いてくれ、俺は――」 「離して!」 ユイは自分の…

PHRASE 15 終わりの瞬間

母は寒さの抜けきらない部屋の中で、征二から届いた手紙を食い入るように読んでいた。俊一はそんな母の様子を見守っていた。手紙の内容なら、自分が先に確認している。おそらく母が取り乱すようなことはないとは思う…

PHRASE 12 記念日

ここにはもう二度と来てはいけない気がした。けれど、今日は、いや今日だからこそ、私はここへ来なければいけないのだ。私は誰からも祝福されてはならない。私は罪人だ。しかし罪を償う術を私は知らない。もしかして…

PHRASE 5 予兆

ユイは警察官二人に抱きかかえられるようにして、病院に現れた。『工藤征二 殿』と書かれた札の部屋の前で、立ち止まった。廊下に、見覚えのない人影がまばらにある。その中の一つがこちらに近づいてきて言った。 …