第十八話 もらい泣き
美咲は夜空を見上げて、ふっと白い息を吐いた。 「笑顔でいるとね、強くはなれないかもしれないけど、自分のことをもっと好きになれる気がするんです」 点灯した公園の街灯の光が、美咲と透、そしてマグを穏やかに照らしている。 「沢…
美咲は夜空を見上げて、ふっと白い息を吐いた。 「笑顔でいるとね、強くはなれないかもしれないけど、自分のことをもっと好きになれる気がするんです」 点灯した公園の街灯の光が、美咲と透、そしてマグを穏やかに照らしている。 「沢…
ヨーコにはひとつ気がかりがあった。期末テストで好成績を出して以降、朋子がどこか浮ついたような、落ち着かない様子でいることが増えたからだ。 客のオーダーを間違えることもしばしばで、そのたびに美咲が謝るのだが、その隣で当の朋…
香月が働いている介護老人保健施設「とまりぎ」のデイケア部門では、月に一度「お出かけ企画」というものがある。これは利用者たちの合議で外でのレクリエーションを楽しむ内容を決めるプログラムで、11月は和食のファミリーレストラン…
美咲がじっとその名刺に釘付けになっていると、その女性は続けた。 「ここはガトーショコラが人気らしいわね」 「えっ」 「グルメサイトに載ってたのよ。でもまだお腹がそんなに空いていないから今度にしようとは思うんだけど」 「は…
プロローグ ごめんね。僕は、たった一言を伝えたかっただけだった。 世界で、ただ一人のきみに、心からの「おめでとう」を。 ごめんね。そんなちっぽけな願いすら、僕には叶えられなかった。 許してくれとは言わない。それでも、本当…
かえでメンタルクリニックはJR駅から徒歩圏内の雑居ビルに開業されており、心療内科と精神科を標榜している。 透が紹介状と市役所から送られてきた受診のための医療受給者証などを受付に出すと、医療事務の女性がにこりと微笑んで「お…
朋子はまだコーヒーにミルクを入れないと飲みきれない。神谷の淹れる一杯を求めてやってくるファンが多いことは知っているが、ブラックではどうしても苦みや酸味が強く感じられてしまうのだ。それをよく知っている神谷は、ランチの混雑時…
透のただならぬ雰囲気にこれ以上は問うべきではないととっさに察した香月は、「そうなんだ。まあ、いろいろあるよね」とはぐらかすように笑った。透は跳ね上がってしまった動悸をどうにか抑えるため、ぎこちない手つきで懸命に胸元をおさ…
クリスマスイブは人々にえもいわれぬ高揚感を与える。街なかは昼間からイルミネーションとクリスマスソングで賑々しく盛り上げられ、通りを歩くカップルはほとんどが手を繋いでいた。いつも座って空の表情をスマートフォンで撮影する公園…
季節は確実にめぐりゆき、桜の季節がやってきた。見事な桜並木がこの小さな街にも存在する。コトノハから歩いて10分もすればたどり着ける、多摩川支流の小さな川の河川敷だ。 「場所取り、ありがとうございます!」 元気いっぱいの美…