Case8.告白
葉山は浩輔の手をするりとかわした。警視庁捜査一課の刑事ともなれば、素人に首元をつかまれたところで造作もないことである。 浩輔に掴まれて乱れた襟元を直そうとして、葉山は「ああ、汚れちゃうか」と手を止めた。 浩輔が睨みつけて…
葉山は浩輔の手をするりとかわした。警視庁捜査一課の刑事ともなれば、素人に首元をつかまれたところで造作もないことである。 浩輔に掴まれて乱れた襟元を直そうとして、葉山は「ああ、汚れちゃうか」と手を止めた。 浩輔が睨みつけて…
はるかを元気づけようと香織が提案したのは、ショッピングだった。女子二人ではしゃぐのも悪くないが、より買い物をエンジョイするため、との名目で葉山も同行してもらうことになった。 つまり、下手に隠れられるより目の前にいてもらっ…
逡巡する葉山の目の前に、かちゃんと音を立ててコーヒーカップが置かれる。葉山がハッと息をつくと、目の前でコーヒーが湯気を立てていた。 ホスピタリティのかけらもないな、と葉山は内心でつぶやいた。 コーヒーを一口すする。味は悪…
翌朝、隆史が不在のため、いつもより早く開店準備をしようと浩輔は早めのダイヤの電車に乗った。自宅から店舗までは電車で2駅と近いが、たった2駅違うだけで、賃貸相場がかなり安くなることに加えて、星空がとてもよく見えるという利点…
娘の莉々が熱を出して以降、時おり隆史は浩輔ひとりに店を任せることがあった。どうやら莉々はあまり体が丈夫なほうではないらしい。隆史はパートナーと離婚しているので、普段は莉々を保育園に預けているが、熱を出してしまうとそうもい…
葉山と来たのは、落ち着いた佇まいの素敵なレストラン、ではなく、よくある街中の中華屋だった。それでも葉山に誘ってもらえたことが嬉しくて、香織は浮足立っていた。 青椒肉絲とビールを頼み、ジョッキで「お疲れ様」と乾杯する。 「…
「そんな玩具で俺を脅すつもりかい」 「玩具に見えますか」 「事務員の若宮さんには拳銃の携帯はできないはずだ」 「かもしれないですね。葉山さんこそ大丈夫ですか? 使用許可も出ていないのに」 刑事はいつも拳銃を携帯しているわ…
星空のよく見えるベランダに出た葉山は、しんと冷えた夜の空気を吸い込んだ。 「いいとこに住んでるんだな」 夜空を支配する星々は、今にも降り注がんばかりにきらめいている。 「それは?」 葉山は興味深げに、隣の部屋の天体望遠鏡…
るいの病室を出たはるかに声をかけてきたのは、娘を連れた隆史だった。 「はるかちゃん」 「西条さん。どうしてここに」 「お見舞い」 そう言って、テラエシエルと同じアーケードに入っているケーキ屋の箱を見せた。 「シュークリー…
古城姉妹は早くに両親を亡くしており、9つ年上の姉るいが会社員として妹のはるかの夢を応援していた。はるかはどちらかというと引っ込み思案で、何をするにもるいの後ろについて歩くような性格だ。 そんなはるかの夢は、パティシエにな…