第十二話 チラシ

『アリスの栞』がある街にある地名、旭町と暁町。ここが朝焼けと夜明けをそれぞれ司っているという伝説は、細々とではあるが若い世代にも受け継がれている。 夜が明ける頃、ハルコは畏まった表情で、旭町のとある神…

第十六話 うにーっ

コーヒーの香りがその場にいる皆の鼻腔をつく。中野はいつも通り静かな佇まいで、一杯一杯丁寧にコーヒーを淹れている。 「美味しいねぇ」 ハルコがホッコリして呟く。その隣で涼介が、 「やっぱマスターのコーヒ…

第十八話 smile

晴れて(?)bookmarkerのメンバーとなった真弓は、そのことを早速香織に報告した。 「すごいじゃん。学生サークルじゃなくて、いきなりセミプロとか」 「まぁね。なりゆき、っていうか」 「どんな?」…

第二十話 花火

夏の終わりに、バンドメンバーで花火をしようという話になった。いい年をしたおじさん二人と成人済みの美容師が、現役女子大生よりはしゃいでいる。「打ち上げは最近、規制が厳しくてね。でも、これならいいでしょ。…

第二十二話 りゅうこつ座

愛した人のことなら、誰よりも知っているつもりだった。ずっとずっと、「見守って」きたのだから。秋子が熱を出した時などには、心を痛めてそばに漂っていた。何もできない自分の無力さを呪った。 何度か、彼は悪霊…

最終話 心の栞

ライブの出演順が近づくにつれ、真弓の緊張はマックスに達しようとしていた。明らかに顔がひきつっている真弓を見て、舞台袖でハルコが「大丈夫?」と声をかけるが、真弓は胸に手を合わせて微動だにしない。 涼介も…

第十五話 面影

「これは……」 真弓の問いに、中野は意を決して答えた。 「僕の祖母だよ。『秋子』さんだ」 そう答えた。真弓は驚きを隠せなかった。 「私に、そっくり……」 「だからたよ」 「え?」 中野は、もがく彰の方…

第十四話 影

中野は驚いて、また内心焦ってもいた。彰のこんな姿を見られたら、きっと真弓は失望する。そして『アリスの栞』を辞めてしまう。そんなことを考えたからだ。 だから、至って平静を装って、中野は真弓に言った。 「…

第十七話 面影

彰さん、私と名前の響きが似ていますね。これもご縁と感じています。そんなことをここにしたためても、あなたへの想いが募るばかりでつらいのです。私は元気です。本当ですよ。 庭に植えたラナンキュラスが咲きまし…

第二十一話 決意と願い

「真弓、真弓ってば」 授業が終わってもボーッと前を見つめている真弓に対し、香織は心配そうに声をかけた。 「大丈夫? ここんとこ、全然元気ないじゃん。バイト、疲れてんの?」 「いや……」 真弓は上の空で…