第七話 ポスター
とある雨の夜、営業の終わったカフェの店内の薄明かりの中に、ぼぉっと彰が現れた。 「やぁ、こんばんは」 マグカップを磨きながら中野が挨拶する。だが、彰はそれに応えない。 「どういうつもりだよ」 「何が?」 彰は剣呑な表情で…
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とある雨の夜、営業の終わったカフェの店内の薄明かりの中に、ぼぉっと彰が現れた。 「やぁ、こんばんは」 マグカップを磨きながら中野が挨拶する。だが、彰はそれに応えない。 「どういうつもりだよ」 「何が?」 彰は剣呑な表情で…
その夜の南大沢警察署は、悪質な飲酒運転の取り締まり対応に追われたものの、取り立てて大きな事件も起こらずに一日の業務を終えようとしていた。加えてその年は長梅雨ということもあり、軽微な物損事故を起こす車も多発していた。 南大…
空腹で目が覚めた。朝食をロクに取っていなかったから無理もない。コーヒーのいい香りが真弓の鼻腔をつく。 「おはよう」 一階から様子を見に来た中野が声をかけた。 「あ、スミマセン、私、つい寝ちゃった」 慌てて立ち上がる真弓に…
真弓は階段を駆け下りると、中野に向かってこう言った。 「bookmakerのCDとかって、ありますか」 中野は背を向けたまま、 「あるよ。少し高いところにあるから、脚立を使わなきゃだけど」 そう返答したので、真弓はバック…
学生の本分は勉強だというが、授業を受けても、レポートを書いていても、あの日以来、真弓はどこかうわの空で過ごしていた。この日も昼休みに学食でラーメンを食べていたのだが、すっかり麺がのびてしまっている。 「大丈夫? 風邪でも…
『アリスの栞』がある街にある地名、旭町と暁町。ここが朝焼けと夜明けをそれぞれ司っているという伝説は、細々とではあるが若い世代にも受け継がれている。 夜が明ける頃、ハルコは畏まった表情で、旭町のとある神社に参詣に来ていた。…
コーヒーの香りがその場にいる皆の鼻腔をつく。中野はいつも通り静かな佇まいで、一杯一杯丁寧にコーヒーを淹れている。 「美味しいねぇ」 ハルコがホッコリして呟く。その隣で涼介が、 「やっぱマスターのコーヒーは一級品だわ」 と…
晴れて(?)bookmarkerのメンバーとなった真弓は、そのことを早速香織に報告した。 「すごいじゃん。学生サークルじゃなくて、いきなりライブとか」 「まぁね。なりゆき、っていうか」 「どんな?」 「えっと……」 まさ…
夏の終わりに、バンドメンバーで花火をしようという話になった。いい年をしたおじさん二人と成人済みの美容師が、現役女子大生よりはしゃいでいる。「打ち上げは最近、規制が厳しくてね。でも、これならいいでしょ。ホラ!」涼介が自慢げ…
ライブの出演順が近づくにつれ、真弓の緊張はマックスに達しようとしていた。明らかに顔がひきつっている真弓を見て、舞台袖でハルコが「大丈夫?」と声をかけるが、真弓は胸に手を合わせて微動だにしない。 涼介も不安になって、「おー…