第十五話 お掃除

「風邪ですね。気温のアップダウンが激しいので、気をつけてください。漢方だけ出しておきます」 医師にそう言われて、クリニックでは、葛根湯だけ処方された。平日に仕事を休むほんのりとした罪悪感もあってか、私…

最終話 花飾り

彼はまるで宣言するように言った。 「本当は僕には、人を愛する資格なんてないのかもしれない」 「どうしてそう思うの?」 私がストレートにそう問うと、彼は一瞬だけ口ごもってから、 「……笑わない?」 私は…

第十三話 脅迫

私は唖然として彼を見た。彼は大切そうに小さな花束を抱えている。 (これは、夢か?) 私は自分の頬を軽く叩いた。どうやら夢ではなさそうだ。 「それ、なに?」 「花束」 そういうことを訊いているのではない…

第五話 あれは、ずるい

上映終了後、まだ桜が見ごろということで新宿御苑まで歩いた。なぜかしら彼は早足だった。 映画が終わってから二人とも、何も言わなかった。散り際になった桜並木に囲まれて、少しだけ息を弾ませて歩いていた。 顔…