最終話 虹

6月のよく晴れた日、絵美子の結婚披露宴が盛大に開かれた。いつもメイクには気を遣っている絵美子だが、プロにメイクアップしてもらい、ウェディングドレスを身に纏った姿は、見る者を惹きつけるだけのパワーに溢れ…

第二十話 クリスマス

決して許さないで、そして忘れない。思い続けることが、彼にとっての償いなのかもしれない。 苛烈な過去を語ってなお、桃香は真一のことを受け入れた。そのことは、許しを意味するわけではない。それでいいのだ。そ…

第十八話 許さないということ

江古田の喫茶店で、彼女は静かに涙を流しながら、彼の手を握っていた。彼女の精一杯の力で、握りしめていた。 彼の口から語られた話を、桃香ははじめはじっと聞いていた。しかし、話し終えた真一の様子が明らかにお…

第十四話 桃香の事情

桃香は両親からの仕送りで暮らしている。たまに体調がいい時にアルバイトをする程度で、すぐに不調になってしまうため、なかなか就職できないでいる。 彼女はいわゆる、お嬢様だ。桃香の父親は大企業で専務をしてい…

第十三話 映画館

「観たかったんだ、『君の名は。』。みんなすごい良いよって言ってるから」 「まだ、上映してたんだね。よかった」 真一は財布を出そうとする桃香を制し、自分の財布から二人分のチケット代を出した。 「割引、使…

第十二話 女子会

「で、なんて呼び合ってるの?」 絵美子が問うも、桃香はスマホから目を離さずに(真一とのラインのやりとりを見ているのだろう)、 「え、フツーだよ? 名前で呼んでる」 「そ。良かったねぇ」 「まぁね〜」 …

第十一話 おでこ

三浦さんはマイペースに、それでいて優しく桃香に話しかける。 「僕、自分のこと大好きなの。何でだと思う?」 「えっと……超能力が使えるからですか」 三浦さんはアッハッハ、と笑った。 「本当に、素直だねぇ…

第八話 短気

桃香は真一の腕の中で深呼吸した。彼のブルゾンには少しだけ煙草のにおいが染みついているが、それすらも、今は心地よく感じられる。 真一はぎこちなく、しかし優しい手つきでゆっくりと桃香の頭を撫ぜる。 桃香は…

第六話 江古田

二人はしばし茫然としていたが、桃香が突然、 「ジェラート、溶けちゃう!」 と言って真一にカボチャ味とバニラ味を半ば押し付けるように渡した。 「私は洋ナシとチョコを担当します」 「え、え?」 「早く!」…

第五話 ジェラート

桃香は人混みを堪えながら、懸命に真一を探した。本来なら都会の混雑は桃香にはしんどいはずだが、幸い『豊島ふれあい福祉祭』はそれほどひどい混み具合でなかったために、絵美子も大丈夫と踏んだのだろう。 喫煙所…