第八話 軽率
「幽霊? なんの話かな」 そう言ったのは、他ならなぬ中野だ。真弓は「え?」と目をキョトンとさせた。 「あの、例のイケメンさんの件なんですけど……」 「まぁ、こんな古民家じゃ、幽霊の一人や二人、出てもおかしくないかもしれな…
「幽霊? なんの話かな」 そう言ったのは、他ならなぬ中野だ。真弓は「え?」と目をキョトンとさせた。 「あの、例のイケメンさんの件なんですけど……」 「まぁ、こんな古民家じゃ、幽霊の一人や二人、出てもおかしくないかもしれな…
とある雨の夜、営業の終わったカフェの店内の薄明かりの中に、ぼぉっと彰が現れた。 「やぁ、こんばんは」 マグカップを磨きながら中野が挨拶する。だが、彰はそれに応えない。 「どういうつもりだよ」 「何が?」 彰は剣呑な表情で…
空腹で目が覚めた。朝食をロクに取っていなかったから無理もない。コーヒーのいい香りが真弓の鼻腔をつく。 「おはよう」 一階から様子を見に来た中野が声をかけた。 「あ、スミマセン、私、つい寝ちゃった」 慌てて立ち上がる真弓に…
心底驚いた真弓であったが、彼女は元来、とても素直な性格だ。それを象徴しているのが、次のこの言葉である。 「あぁ、だからか……」 そう、真弓にはすぐ合点がいったらしいのだ。 「え、何が?」 ハルコが不思議そうに問う。 「こ…
初出勤をなんとか終えてくたくたになった真弓は、アパートに帰るやいなや、そのままベッドに突っ伏した。 (なんだろ、あの人) 急にいなくなった「イケメン落丁青年」のことだ。カフェでの初バイトは、とても楽しかった。マスターもい…
「あの、スミマセン……お客様……その……」 真弓が口ごもっていると、中野は「あーあーあー、」と手をひらひらさせて、 「真弓ちゃん、気にしなくていいよ。よくあることだから」 とフォローに入ってくれた。 「え、でも」 「気に…
「アリスの栞」でのアルバイトが決まった旨を、さっそく真弓は両親に報告した。 「うん、明日から。家賃はカバーできそうだよ。卒業前には海外旅行にも行けるってさ」 電話口の母親は、「それはすごいね」と笑い、 「体に気をつけてね…
東京都の西の隅っこの街のはずれにある、とある本屋。真弓がこの本屋でのアルバイトを決めたのは、今月入学した大学と一人暮らしのアパートのちょうど中間という好立地に加えて、カフェが併設されているからだった。 真弓は自他ともに認…
それは付き合い始めて一ヶ月もした頃だっただろうか。初めて二人が結ばれた夜、手を差し伸べてきたのはユイの方からだった。 少しつりあがった目を潤ませて、羞恥心から顔を俯かせ、いつも別の布団に寝ていたユイが、午前2時、隣で眠っ…
「征二、やめて、お願い」 ユイは突然の出来事に、ひきつった表情を隠せない。涙すら出ない。 「赤い目だ!」 征二は不可思議なことを、不可解な行動と共に言う。 「お前らの目が赤いのが何よりの証拠じゃないか。俺を騙したな。騙し…