三限目 ぱん
芸能人の自分にまったく興味を示さない彼に、佐宗は却って興味を持ったらしかった。取り巻きたちには目もくれずに、しょっちゅう彼にちょっかいを出していた。 その日は二限が終わって昼食時になるやいなや、大教室の一番後ろを陣取って…
芸能人の自分にまったく興味を示さない彼に、佐宗は却って興味を持ったらしかった。取り巻きたちには目もくれずに、しょっちゅう彼にちょっかいを出していた。 その日は二限が終わって昼食時になるやいなや、大教室の一番後ろを陣取って…
私と彼が付き合っているらしいという噂は、すぐに学内中でささやかれるようになった。噂というのはいつだって、尾ひれをつけて拡散される。私は内心うんざりしながらも、懸命にスルーの姿勢を決め込んでいた。 それでも、おせっかいとい…
「ギリ東京、ほとんど埼玉」というキャッチフレーズですっかりおなじみの街に、私の通う小さな大学がある。学部が社会福祉学部の一つしかない、ユニバーシティではなく、いわゆるカレッジだ。 緑の多いキャンパスは、近所の保育園から園…
社会福祉士:国家資格の一つ。身体上もしくは精神上の障害がある人、または環境上の理由によって日常生活を営むのに支障のある人、困難を抱える人を対象とする。福祉に関する相談に応じ、助言や指導をする。さらに、福祉サービスや健康医…
蒼斗の発した叫び声が滲ませる悲痛さに、朝香と晴也、それに夕実は胸を締め付けられ、息苦しさすら覚えた。 小夜は、残酷な現実を直視しなければならないことに気づき、膝から崩れそうになるのを懸命に堪えていた。扉を開こうと全体重を…
蒼斗の口調はどこまでも冷徹で、告白というよりどこか遠い国の出来事を報告するようだった。運転席の明がスン、と鼻を鳴らし、蒼斗の代わりに礼を述べた。 「まぁ、そういうことなんだ。みんな、聞いてくれてありがとうな」 沈みゆく太…
楓子の不在に、小夜は激しく動揺した。しかし、蒼斗のただならない様子に、それはすぐに押し潰された。 蒼斗は、沈んでいく太陽を射抜かんばかりに鋭く睨んだ。 「……西へ。すべてのことは、道中で話す」 M-07に「蒼斗」という名…
「二人」は「家庭」や「日常」といったごくありふれた生活の記憶を、一切持たなかった。確かに彼らは望まれて生を受けたが、それは「利用価値の高い成功体」だからに過ぎなかった。その証拠に、彼らには名前が与えられず、識別のためのコ…
SNSをはじめとして、インターネット上で世界中と繋がることが可能だった時代、なぜ多くの人が「孤独」に苛まれたのか。 晴也は思うのだ。孤独自体に毒性があるわけではない。恐らくその時代の人々は、孤独と付き合い、味わい、共に在…
その少女が姿を現すと、部屋の中は水を打ったように静まりかえった。待ちわびていた信者たちから一斉に畏怖と崇拝の視線を浴びせられても、少女は全く意に介さず最奥のソファにゆったりと体を横たえる。 少女はその白い肌を人目へ晒すこ…