分けあった季節

豊穣とは、枯れ朽ちる手前のいっときの喜び。祝福された実りを手にする人々にとって、収穫とは、その喜びを分けあう、かけがえのない作業だ。 幼馴染のフレイは、あどけなさの残る頬に土ぼこりをつけながら、僕の家…

ジグソーパズル

完成したら、終わり。終わってしまえば額縁に飾られて風景画未満になる。 だからふたりのジグソーパズルが完成しないように、私は思い出のひとかけらをポケットにしまった。 「なんだっけ、きみが行きたがってたカ…

可哀想

情があるからこそ成り立つ舞台もあるでしょうに……。 情欲と情動の区別もつかなくなった憐れな貴方から昨晩、手紙が届きました。 以下、全文転載――――― 相変わらず飽きずに満たしていますか? 前提として「…

イカロスのみた夢

幼い頃の他愛のない話。 空を飛ぶための方法が知りたくて、町はずれの変わり者の家を訪ねたことがあった。 もうお昼ご飯なのに、博士はベッドの中でくまのぬいぐるみを抱いて眠っていた。 「ねぇ。人間はどうやっ…

五時半に渋谷で、と彼からラインが届いた。金曜日の夜の渋谷なんて、人混みがすごくてうるさいに決まっている。気が重かったが、断るわけにもいかなかった。彼から借りた傘を、今日こそ返さなければならなかったのだ…

はじまりのレストラン

世界の終わりのその後に、ふたりは朽ちた一軒家で小さなレストランをはじめた。決してお客さんは来ない。それでもふたりはキッチンに並び、残された時間を丁寧に暮らしている。 「コロッケは意外と、手のかかるメニ…

「それで、その死岡とかいう不気味な名前のホシは、どうやってあんなたくさんの人数を殺害したんだ」 「ちょっと現場のデカの走り書きが汚くて、数字が読みづらいんですが、少なくとも数百人……いや千人はくだらな…

おともだち

カーテンでのみ仕切られた暗い部屋で、ある晩、ついに僕にお友達ができた。 彼はもじゃもじゃの金髪に赤い鼻、派手な水玉模様のサロペットに虹色のチョッキを着て黒い靴を履いていた。終始、楽しそうに笑顔を浮かべ…

Green sleeves

紅葉が燃えるような美しさに包まれる景色を窓から見た。しかし彼はその赤を「葉っぱの色素が死んだ物質の沈殿の結果」としか認識せずに、薄笑いをしながら鼻歌を歌う。それは確か、グリーンスリーブスという古い曲だ…

スマホを落としただけだから

うっかりスマホを落としてしまった女子大生。知らない言葉一つ調べるのにも辞書が、電車の乗換えを調べるにも路線図がいる。友達と連絡を取るためには手紙を書かなければならない。徐々にそんな生活も悪くないなと思…