雨傘
五時半に渋谷で、と彼からラインが届いた。金曜日の夜の渋谷なんて、人混みがすごくてうるさいに決まっている。気が重かったが、断るわけにもいかなかった。彼から借りた傘を、今日こそ返さなければならなかったのだ。 黒のコウモリ傘。…
五時半に渋谷で、と彼からラインが届いた。金曜日の夜の渋谷なんて、人混みがすごくてうるさいに決まっている。気が重かったが、断るわけにもいかなかった。彼から借りた傘を、今日こそ返さなければならなかったのだ。 黒のコウモリ傘。…
「ああ、あの子なら先日、天使になっちゃったよ」 苦笑混じりのその言葉に、僕は持っていた花束を薄汚い廊下に落とした。 「先日って具体的にいつですか」 やや責めるような口調になってしまうのが自分でも悔しい。 『白衣の天使』は…
新宿駅のハンバーガーショップで、女子高生が二人、シェークを飲みながらダベっている。 私の隣できゃいのきゃいの、実に楽しそうである。 その日、仕事で嫌なことがあった私はやっかみにも近い感情で、彼女らを疎ましく感じていた。 …
世界の終わりのその後に、ふたりは朽ちた一軒家で小さなレストランをはじめた。決してお客さんは来ない。それでもふたりはキッチンに並び、残された時間を丁寧に暮らしている。 「コロッケは意外と、手のかかるメニューだね」 じゃがい…
オーケストラの演奏が零時ぴったりに見事にフィニッシュし、拍手と歓声と派手な花火の演出が、2018年の始まりを告げた。 「あけましておめでとう」 私が言うと、彼はあくびをしながら 「うん」 とだけ応じた。それからまもなく、…
2017年が終わる。年の瀬に、実家に帰ってこなくていいと言われた私たちは、二人きりでの年越しを過ごすことになった。 年末の買い物を終え、帰り道で私たちはわざと遠回りをして、最寄駅の踏切道の前で立ち止まった。 遮断機が下り…
川越まで日帰りで小旅行に行ってきた。自宅から車で一時間半も飛ばせば辿り着ける場所にあるので、思い立って小江戸散策を決めたのだ。昨日でお互い仕事納めだった自分たちへの、ちょっとしたご褒美のつもりだった。 川越散策には最高の…