はじめて

オーケストラの演奏が零時ぴったりに見事にフィニッシュし、拍手と歓声と派手な花火の演出が、2018年の始まりを告げた。

「あけましておめでとう」

私が言うと、彼はあくびをしながら

「うん」

とだけ応じた。それからまもなく、二人して眠りについた。


初日の出をテレビ越しに見た。私は窓辺でスマホ片手に撮影のスタンバイをしていたのだが、彼はテレビ中継される「ダイヤモンド富士」が見たいと言ってリビングのソファから動かない。仕方ないので私も隣に座ることにした。

彼は二人で用意した煮物のサトイモを一口食べ、こう呟いた。

「何をしても『初めて』になるのかな」
「ん?」
「初日の出、書き初め、初詣。なんでも初めて、になるのかな」
「そうじゃない? じゃあ、それは食べ初めだね」
「そう。じゃあ、ちょっとトイレ初め行ってくる」
「いってらっしゃい」

年が明けても別に、あの人の何かが変わるわけではない。今年も相変わらず、仕事をし、ドライブに行き、時折幻影と遊び、共に泣き笑いする大切な人であることに、なんの変わりもない。

テレビでは番組の司会者が「間もなくダイヤモンド富士です!」と高らかに叫んでいる。画面には見事に晴れた空と堂々たる富士山が映っており、もうすぐその「ダイヤモンド富士」とやらが現れるらしかった。

彼は戻ってくるとすぐに、テレビに向かってスマホを向けた。私は思わず、

「それ、意味ある?」

とつっこんだが、彼は涼しい表情だ。

「もちろん。本栖湖の奥の奥まで行かないとこれ、見られないらしいから」

わからない。生の初日の出がベランダに出れば見られるのに、テレビ画面にスマホのカメラを向ける彼のことが、やはり今年もわからない。

「……変なの」
「あ、ボヤき初め」
「うるさいなー」

初詣は、近所の神社へ行った。あまり信心深くない私たちにとっては実質、初詣がラスト詣だが、それはそれで形だけでも大切だよね、と言い訳をしてお参りをした。

手を合わせている間、彼が何を思ったかはわからない。しかし、珍しく真剣な表情でこうべを垂れていた。

その後、おみくじを引いた。二人して大吉だった。

「やったー!」

はしゃぐ私に、しかし彼は、

「大吉か」

少し不機嫌そうに言ったので、私は首をかしげた。

「どうしたの?」
「どうせなら凶を引きたかった」
「なんで!?」
「大吉って、今が一番ってことでしょ。あとは落ちてく一方でしょ」
「あー」

私はニヤッと笑い、彼の肩を小突いた。

「出た、浸り初め」
「えっ」
「いただきましたー、ハイいただきましたー」
「何がさ」
「浸り一丁、いただきましたー」
「からかってるの」

彼がムキになるのが面白かったので、私は

「うん!」

と即答した。彼はムスッとして、

「たかがおみくじ、されどおみくじだよ」

などと言うので私はますますおかしくなって、

「じゃあ、まぁくんの分の大吉も私のものね」

そう言って私は、彼のおみくじからエネルギーを吸い取るような奇妙な仕草をした。

「おぉ、大吉のパワーはうまいのぅ。芳醇な香りがするわい」
「あ、バカ初めだ」
「フォッフォッフォッ」
「ぷっ」

それが、彼の笑い初めになった。

なんだか、今年はいい年になる、そんな確信にも似た予感がしている。