春の五句

うつろいを告ぐ蝶々の瞬きよ べにをさす誰もがやがて春惜しむ 平和こそ心に架かる初虹よ 春愁にひとりラジオの沈黙か 猫の子の生意気なこと花まるぞ

恋の手帳

うららかよ二度寝こそ世の平和さよ 突然の打ち明け話春一番 シャンプーよ指に絡まる桃の香よ 朧月ほんとうのことだけが要る いぬふぐり踏まれてもなおいぬふぐり ひとひらの桜舞いこむプリーツよ 春惜しむ傷つ…

春の

桜咲く散るを知ってか全力で 諍いもほどかれてゆく雀の子 春時雨エンドロールと遊ぶ影 雁帰る生まれ故郷はなお遠く のどかさよ犬吠え猫は夢のなか

早春

ワンピース春一番に身を預け 春ショールまといスキップ生きてこそ たんぽぽのエールを受けて踏み出す児 春の蝿SOSか置き手紙 ブランコよ見え隠れするおぼろ雲

晩冬〜早春

冬尽きて友を許すか喫茶店 風運ぶバスよ栞はさくら色 雑踏よ春告鳥は知らん顔 雪だるま別れ支度を始めるか 巣立ちのちそれでも厨に立つ母

冬の五句

風花のゆく道照らす破顔こそ 手ぬくめて転居届にかかる雪 山茶花のくれない灯る子の頬よ 陽のあたる縁側に初すずめ来る 鳥影よ初日の入の地平まで

マフラーを編むほどに急く指先よ 初雪が迷いと消える街角よ クリスマスツリー仰いでひとりの夜 ひと切れをわけあう頬の赤らみよ ただいまを待つ父母よ十二月

晩秋

ぬくもりよ秋の小径で繋いだ手 帰りみち母と踏みしめ落ち葉鳴く 紅葉よ時よ止まれと伸ばす影 夕まぐれ一歩一歩と秋熟れる 秋風が運ぶ戸惑い初恋よ

いわし雲ひとそれぞれに旅立ちよ 秋桜よ逆風にこそ凛とあれ 破顔する母のまぶたに月宿る 赤とんぼ昔語りに寄り添うか 歳月よ山粧うか老いてこそ

長月

からっぽの籠に手を延べ小鳥発つ 秋の雲進めば影も道となる 月を抱く人よ熱まで閉じ込めて ありのまま明日を導く小鳥こそ 秋の雲うつろうすべて頬に受け