ご家庭用
曲がりなりにもキマイラの我である。ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持ち、口からは火炎を吐く。人間どもはこぞって我を恐れ、権力者らは報奨金までかけて討伐の対象とした。そう、我は世界の深淵という孤独に、いびつな肢体を預け…
曲がりなりにもキマイラの我である。ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持ち、口からは火炎を吐く。人間どもはこぞって我を恐れ、権力者らは報奨金までかけて討伐の対象とした。そう、我は世界の深淵という孤独に、いびつな肢体を預け…
「普遍的価値のある事象だけに意味があるだなんて、随分と陳腐な考えだね。別に、それが悪いとはいわない。ただ、神が何ゆえ、僕らに『痛み』を与えたかについて考えたことはあるかい? それは、僕らが生きているということを、他ならぬ…
澄んだ空気を鼻から吸い込むと、甘い花のにおいがした。つつじだろうか、くちなしだろうか。草木が生い茂って見えないが、近くには小川が流れているらしく、かすかに水音が聞こえる。 「待ってよ」 私が文句をつけても、彼は軽快な足取…
どこにでもいる兄弟だと思っていた。年の離れた兄は少し引っ込み思案だが、とても優しく穏やかな、ごく普通の青年だと思っていた。 春の足音が聞こえてきたとある日のこと、一通の手紙が届いた。僕が不自然に感じたのは、龍を象った切手…
ベテランパイロット、マイケル・スペンサー(仮名)の証言 「確かに俺は見たんだ。あいつがあぐらをかいて、大あくびしていたのを!」 ぼくには大好きなおばちゃんがいる。でもおばちゃんって呼ぶと怒るからおねえちゃんって呼んでる。…
時に紅く、時にほの白く、また時に蒼く。ゆらゆらと揺らめく炎が絶えないよう、薪をくべ続けるのが僕に与えられた唯一の使命だ。 炎は物言わない。けれど、かしましい人間よりよほど思慮深いと感じる。地の果てと名付けられた場所で、僕…
覗き込まれると、なんというか、困る。照れるとか恥ずかしいとかではなく、困る。 それをわかっていて、きみは僕の瞳を——正確には虹彩を覗き込んでくる。覗き込んではきれいだね、と嬉しそうに笑う。 右の虹彩は青、左は金色。オッド…
お前がもうこれ以上傷つかないよう、石英硝子でできた籠にお前を閉じ込めてから、どれくらいの時間が経っただろう。 朝が来るたびに、お前はその白い羽を震わせてリーンと鳴く。どんな天使の歌声よりも美しく響くそれは、私を眠りから覚…
久々に会う彼とこじゃれたカフェでディナーをするために、日もとっぷりと暮れた街を新しいスカートを履いて歩いていた。 遮断機のバーが降りはじめて、しかし私は走ることをしなかった。ワイヤレスイヤホンの右側が耳から落ちてしまいそ…
彼が神を自称しはじめてからも、私たちの生活になにか大きな変化が起きたわけではない。 彼は相変わらず寝坊するし、派手に忘れ物をするし、よく椅子の端にかばんの紐を引っかける。 自称とはいえ神なら予言のひとつもしてみたらどうか…