暖炉の炎
時に紅く、時にほの白く、また時に蒼く。ゆらゆらと揺らめく炎が絶えないよう、薪をくべ続けるのが僕に与えられた唯一の使命だ。 炎は物言わない。けれど、かしましい人間よりよほど思慮深いと感じる。地の果てと名付けられた場所で、僕…
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時に紅く、時にほの白く、また時に蒼く。ゆらゆらと揺らめく炎が絶えないよう、薪をくべ続けるのが僕に与えられた唯一の使命だ。 炎は物言わない。けれど、かしましい人間よりよほど思慮深いと感じる。地の果てと名付けられた場所で、僕…
覗き込まれると、なんというか、困る。照れるとか恥ずかしいとかではなく、困る。 それをわかっていて、きみは僕の瞳を——正確には虹彩を覗き込んでくる。覗き込んではきれいだね、と嬉しそうに笑う。 右の虹彩は青、左は金色。オッド…
お前がもうこれ以上傷つかないよう、石英硝子でできた籠にお前を閉じ込めてから、どれくらいの時間が経っただろう。 朝が来るたびに、お前はその白い羽を震わせてリーンと鳴く。どんな天使の歌声よりも美しく響くそれは、私を眠りから覚…
久々に会う彼とこじゃれたカフェでディナーをするために、日もとっぷりと暮れた街を新しいスカートを履いて歩いていた。 遮断機のバーが降りはじめて、しかし私は走ることをしなかった。ワイヤレスイヤホンの右側が耳から落ちてしまいそ…
彼が神を自称しはじめてからも、私たちの生活になにか大きな変化が起きたわけではない。 彼は相変わらず寝坊するし、派手に忘れ物をするし、よく椅子の端にかばんの紐を引っかける。 自称とはいえ神なら予言のひとつもしてみたらどうか…
神さまになんて、なりたくなかった。 *** 今日の彼には、私の背中に銀色の翼が見えるという。映画館で流行りの作品を観ているときも、こじゃれたレストランでランチをしているときも、点灯前のイルミネーションが絡まった樹々の並ぶ…