2017年が終わる。年の瀬に、実家に帰ってこなくていいと言われた私たちは、二人きりでの年越しを過ごすことになった。
年末の買い物を終え、帰り道で私たちはわざと遠回りをして、最寄駅の踏切道の前で立ち止まった。
遮断機が下りてきて、けたたましく警告音が鳴りはじめる。
赤信号の明滅を見つめながら、そういや2017は素数だったね、と彼が呟いたので、私はギクリとした。
「そうなんだ」
とりあえず相づちを打つと、彼はやはり赤信号の明滅を見つめたまま、
「そうだよ」
抑揚のない声で答えた。
明日は大晦日。天気予報を見る限り、どうやら雨は免れそうだ。曇天の下で、私たちは新しい年を迎えることになる。
彼が素数の話をするとき、それは決まって彼の中の宇宙が泣いているときなのだ。
私は彼が中空に差し出している右手をぎゅっと掴んだ。
「大丈夫だよ」
私がそう言っても、彼が信号から目を離すことはない。それでも私は続ける。
「……大丈夫だから」
「何が?」
彼の口調は冷たい。いや、冷たいというよりは不自然に機械的だ。だからこそ、私は握った手に力を込めた。
「泣きたければ泣けばいい。泣けなければ泣かなければいい。正解なんてないんだから。だから、大丈夫」
「……」
「次の素数は、いつ?」
「2027」
即答されて私は怯んだ。本当にこの人の宇宙は、現在進行形で泣いているのだ。
「そっか。その頃は、もう私も若くないな」
私はそう言って、彼が手をしまっているコートのポケットに自分の手を入れ、彼の頬に自分のそれを触れさせた。
それに動揺したのか、彼はこんなことを言ってのけた。
「……まるで、今はまだ若いような発言だね」
私は、コートの中の手を思い切りつねった。
「痛っ」
「無礼者」
「……」
「帰って紅茶を淹れてくれたら、許して遣わすぞ」
彼はわざと、コツンと私の額に頭突きした。
帰る場所なら、ここにあるから。いつだって私はあなたを、あなたは私を待っている。だから、きっとだけど、大丈夫なのだ。そのことを伝えるのが、たぶん私にしかできないことなのだと思う。
中央線が忙しなく通り過ぎて、遮断機が上がる。二人、ポケットの中で手を繋いだまま踏切を通り、帰途についた。
グッバイ、2017。
ハロー、2018。
新しい年がどうか、二人にとってさらにいい年でありますように。もっと寄り添っていられますように。……今はただ、そう祈らせてほしい。