第十三章 決意

「ミズ、どうしたの」
綾香が首を傾げて問いかけるも、ミズは難しい顔をして黙ったままだ。
「眉間の皺は良くないよ」
綾香はつまらなそうにキルトを弄びながら、欠伸をした。
「せっかくお夜食作ったのに」
「そうね」
「冷凍しておく?」
「そうね」
「あっちの大きな冷凍庫に、内臓とかと一緒に入れてもいい?」
「そうね」
「これが本当のモツ煮。なんちゃって」
「そうね」
「聞いてないでしょ」
「そうね」
「もー」
綾香が頬を膨らますが、ミズはため息をつくだけだ。
「あら。天下のミズがため息?」
綾香がちゃかすも、それに恣意的かどうか不明だが一切関知しないミズは、浮かない顔でこう告げた。
「綾香。歌ってくれないかしら」
「え?」
「あの歌を。もう一度」
「んー」
ふわりとした雰囲気を漂わせながら、
「無理よ」
「どうして?」
「あれは、私の歌じゃないもの」
綾香は笑う。
「歌ってほしいのなら、呼ぶことね」
「誰を」
「あの人を。お姉ちゃんが唯一愛した人を」
ミズは「フーン」と挑発的に言い、
「あの変態なら、しばらく勘弁願いたいけど、会えないこともない。呼び出しは可能」
「無理しないでいいよ。私だって疲れるもん」
「まるで降霊術ね」
「知らない」
「あいつならどう診断するのかしら」
「私、病気なの?」
「診断が下れば、どんな事象にも病気のレッテルが貼れる世の中よ」
「怖いなー」
さして怯えるでもない様子で綾香が言う。
「今日はもういいわ。寝ましょう。綾香、夜食のことは悪かったわね」
「あ、ミズが謝った」
「珍しいかしら」
「かなり」
クスッと笑い、ミズは綾香の頭をなぜた。