「ミズ、どうしたの」
綾香が首を傾げて問いかけるも、ミズは難しい顔をして黙ったままだ。
「眉間の皺は良くないよ」
綾香はつまらなそうにキルトを弄びながら、欠伸をした。
「せっかくお夜食作ったのに」
「そうね」
「冷凍しておく?」
「そうね」
「あっちの大きな冷凍庫に、内臓とかと一緒に入れてもいい?」
「そうね」
「これが本当のモツ煮。なんちゃって」
「そうね」
「聞いてないでしょ」
「そうね」
「もー」
綾香が頬を膨らますが、ミズはため息をつくだけだ。
「あら。天下のミズがため息?」
綾香がちゃかすも、それに恣意的かどうか不明だが一切関知しないミズは、浮かない顔でこう告げた。
「綾香。歌ってくれないかしら」
「え?」
「あの歌を。もう一度」
「んー」
ふわりとした雰囲気を漂わせながら、
「無理よ」
「どうして?」
「あれは、私の歌じゃないもの」
綾香は笑う。
「歌ってほしいのなら、呼ぶことね」
「誰を」
「あの人を。お姉ちゃんが唯一愛した人を」
ミズは「フーン」と挑発的に言い、
「あの変態なら、しばらく勘弁願いたいけど、会えないこともない。呼び出しは可能」
「無理しないでいいよ。私だって疲れるもん」
「まるで降霊術ね」
「知らない」
「あいつならどう診断するのかしら」
「私、病気なの?」
「診断が下れば、どんな事象にも病気のレッテルが貼れる世の中よ」
「怖いなー」
さして怯えるでもない様子で綾香が言う。
「今日はもういいわ。寝ましょう。綾香、夜食のことは悪かったわね」
「あ、ミズが謝った」
「珍しいかしら」
「かなり」
クスッと笑い、ミズは綾香の頭をなぜた。