お友達

カーテンでのみ仕切られた部屋で、ある晩、僕に新しいお友達ができた。

彼はもじゃもじゃの金髪に赤い鼻、派手な水玉模様のサロペットに虹色のチョッキを着ていた。終始、楽しそうに笑顔を浮かべていた。

名前を知らないので、仮に「暗闇ピエロ」と呼ぶことにする。

暗闇ピエロは最初にジャグリングを教えてくれた。彼は3つの玉を自在に操った。

冷たい青玉は僕の呼吸。熱い赤玉は神様の心臓。硬い白玉は昔の過ち。それらをすべて文字通り手玉に取ることができるという。

その次に、玉乗りをして見せてくれた。それは見事なものだった。足蹴にして転がしているのは、昔愛したはずの人だという。

人間が完全な球体になれるのかと問うと、暗闇ピエロは造作もないことだ、と答えた。
疑念を抱くことは、「ここ」では許されないし、必要のないことらしい。

最後に、正気の保ち方を教えてくれた。

それは湖面に浮かべたボートの上に立ちながら針に糸を通すような行為だという。
だから、できなくても構わない、とのことだった。

――もしそれができたらもう、会うことはできなくなるとのことだった。

僕はそんなことはしたくない、と断った。
すると、暗闇ピエロは嬉しそうに目を細めた。
彼と僕はもう、すっかり友達だった。

どんなに明るい光の下でも、暗闇ピエロが時々こちらを向いて優しく微笑むから、僕はそれに抗う術を知らなかった。

(けれど、季節の容赦ない巡りようといったら、風に舌を切り刻まれるようで)

僕はやがて愚かな架空動物となって、人々に絵画のモデルとされてその姿を壁に飾られた。人々に愛でられ愛でられ、気の済むまで愛でられ尽くされた。それは、笑顔で刃を突きつけ続けられる行為に等しかった。

気が付くと、僕はこんな鳴き声になっていた。

「――もっと愛して!」

僕は暗闇ピエロのことなどすっかり忘れて、正気のまま一生を過ごすことになった。

それを、誰が「幸せ」なんて決めつけられるのだろうか。