Odin

オーディン(Odin)はスウェーデンのサブミリ波観測衛星。2001年2月20日、ロシア極東のスヴォボードヌイ宇宙基地からスタールト1ロケットにより打ち上げられた。名称は北欧神話の神のオーディンに由来する。

天体物理学と大気学研究が主な目的で、星の形成の仕組みや、オゾン層の減少、地球温暖化の影響が調べられている。(中略)

2007年4月、天文学者はオーディンが酸素分子からなる星間雲の存在を初めて発見したと発表した。

出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

北欧神話の最高神・オーディンの名を得た衛星が発見した、星間雲。その組成の詳細はいまだ未解析であるとされている。宇宙のガスやプラズマ、ダストの集合体であるという説を唱える専門家もいるが、僕は知っている。オーディンが発見したのは、他でもない「寂しさ」であることを。

オーディンは地上約1000キロメートルの円軌道をとり、約83分で地球を周回している。僕たちのはるか頭上にオーディンが孤独に存在しているのだと思うと、僕はどうしようもなく寂しくなる。

人々がテクノロジーの発展と引き換えに打ち捨てた、自然や宇宙への憧憬や畏敬の念。僕はすっかり、持ち前の悪戯心を失くしてしまった。人々は各々の正義を不埒に振りかざし、四角い空の下で鼻息を荒くしている。見苦しいことこの上ない。

同族でわかりあえないのだから、もうつける薬がないと思う。僕は、なぜオーディンがこの惑星を飛び出して、宇宙に旅立ったのかがわかる気がした。オーディンは、探していたのだ。己の中に渦巻く「寂しさ」を受け止めてくれる場所を。そしてそれは、この惑星にはなかった。

万有引力は嘘をつかない。オーディンは、宇宙に出てまで寂しさを発見してしまった。寂しさが、寂しさを引き寄せたのだ。

しかし、そんなオーディンのことを、僕は同情したりましてや軽蔑したり嘲笑することができない。オーディンと僕は、ただただ寂しさでもって繋がっている気がするのだ。寂しさこそが唯一にして最高の、オーディンからの試練だと、僕は信じている。

――寂しいのは、僕も一緒だよ。

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虚しい文字たちの並ぶ画面を僕はオフにし、ビルの窓から空を見上げた。

――大丈夫、ちゃんと寂しいのなら。

オーディンは、ロキぼくにそう言った気がした。