ウィル・オ・ウィスプ

己の呼吸と重たい衣擦れの音だけが、空間に響いている。もうどうれくらい此処にいるのだろう。周囲は、相も変わらず闇に支配されている。冷え切った床と壁は、あらゆる生命の営みを拒絶しているかのようだ。

私は罪を犯したとされた。家族や恋人、私にとって大切な人々の誰一人として減刑を嘆願しないのは、私の罪が王の怒りに触れるものだったからであろう。

しかし、である。私はただ一言、こう詠っただけだ。

――光こそ世の支配者である。

来る日も来る日も、私は暗闇の中で過ごした。いっそ死んでしまえたら、とも思ったが、命を自ら手放すことは、曲がりなりにも詩人の一人として、その矜持が許さなかった。

ある日――それが昼か夜かもわからなかった――天井からひとしずく、水滴が落ちて私の頬に当たった。驚いて見上げると、そこに仄かな光の粒が漂っていた。その粒はあちらこちらに浮遊し、ふっと消えてみせたりし、私の興味を大いに引いた。

光の粒はやがて拳ほどの大きさになり、青白い色を帯びた。そうして私の顔の近くへやってきて、ゆらゆらと揺れた。

「お前は、まさか」

私は思わず言葉をこぼしていた。「それ」はこう応えた。

「僕は、ウィル・オ・ウィスプ!」
「おお……」
「哀れな詩人さん。愚かな王の癇癪でこんな場所に! 人間てのは、どうしてこう、『わからない』んだろうねぇ」
「光の精霊たるお前が、なぜこんな場所に?」

私がそう問うと、ウィル・オ・ウイスプは楽し気にその身を跳ねさせた。そうして、どこか歌うような口調でこう答えた。

「深い暗闇に閉じ込められても、その心身を闇にやつさなかった詩人さん、お名前は?」
「……ウィリアム」
「ウィリアム、きみの肉体はたった今終わりを告げた。けれど、光を信じ貫いたその魂が、僕をここに呼んだのさ。きみもまた、松明持ちのウィリアムウィル・オ・ウイスプの一部となって、そう、光そのものになって、世界を巡るさだめなんだよ」
「なんだって……?!」

私は今一度、身を起そうとした。しかし、体がいうことをきかない。否、気づけば私は、ウィル・オ・ウィスプの一部となって、己の亡骸を見下ろしていたのである。

やがて私は、はるか昔に生まれて初めて母の腕にいだかれた時のような安堵と、生まれて初めて父に手を握ってもらえた時のような心強さと、生まれて初めて恋人と想いを通じ合わせた時のような喜びを感じながら、明るいほうへと吸い込まれていった。