「またしても八王子市で悲惨な事件が起きてしまいました。今回の事件を受け、市内の小中学校は容疑者の検挙まで休校とする異例の措置を取りました。犯罪心理学がご専門の足立教授にうかがいます。犯人は今どこにいると考えられるのでしょうか」
「まったく許せない事件ですね。子どもたちの学ぶ権利を侵害するとは、卑劣極まりない犯行です。犯人は恐らく、定年退職した男性でしょう。今は、次の犯行を計画して家に閉じこもっている可能性が高いです」
「それはなぜですか?」
「専門的見地から申せば……」
美奈子はリモコンの電源ボタンを押下してテレビを消した。ニュースまでくだらなくなったら、いよいよ新聞くらいしか情報源はなさそうだというのに。
「ねぇ、新聞届かなくない?」
「みたいだね」
「ねぇ裕明。やっぱり事件に対するオピニオンは持たない主義?」
美奈子に言われて、裕明は首を横に振った。
「そういうのは、僕じゃないよ」
美奈子は口に手をやった。
「じゃあ、勝手に新聞を契約したのは、佐久間さん?」
「知らない」
裕明はパソコンの電源を入れ、ネットサーフィンを始めた。
「これ見てよ。バカみたいなブログ」
「え?」
画面に映し出されているのは、「真実追求系ジャーナリスト・ナオキのブログ」の文字と、個人情報の部分にモザイクこそかかっているが「ひるにち新聞」の契約書らしき紙片の画像だ。
「なにこれ。気味悪いなぁ。それに、まるで真実を追求しないジャーナリストがいるみたいじゃない」
「今まさに画面の中に居るんじゃないの」
「むー」
美奈子は画面に食いつくと、マウスでスクロールさせて記事を読み漁った。その背後で裕明の挙動が一瞬止まっていたことに、美奈子は気づいていない。
美奈子はそのブログの内容の下衆さに嫌気が差したらしく、新しいタブページを起動させて神保町界隈の情報サイトにアクセスした。
「お、今年もやるんだ! 『神保町カレーグランプリ』! これは通わねば」
美奈子のこういう素直でわかりやすいところが、「彼」は大好きである。
「雪、こっちおいで」
「ん?」
裕明は、いや佐久間は美奈子の頭に手を置き、髪をくしゃりと撫ぜると、彼女の頬にキスをした。
第二話 ブランコ へつづく