(二)
「これ、なに?」
美奈子が雑誌や書類の積まれたテーブルの整頓をしているとき、見慣れないなにがしかの契約書が出てきた。
「『ひるにち新聞』」
「なにが?」
「え?」
美奈子は目を平らにして「おーい」と契約書を睨む。それを裕明は微笑みながら眺めている。
「裕明、笑ってる場合じゃないよ。来月から毎朝、新聞が届くの? 月に三千円ちょっと飛ぶの?」
「そうみたいだね」
「もう! こういうのって無効とか、どうにかならないかなぁ。だって筆跡が明らかに裕明のじゃないじゃん」
「でも、たぶん契約したの僕だし」
美奈子は頭をかかえた。もしかしなくても、裕明の別人格が勝手に街の新聞店に出向いて、新聞を契約してしまったらしかった。
「どうする? 僕がもう一度店に行って解約してこようか」
「いや、いいや。このまま一か月でいいから、購読しよう」
「どうして?」
美奈子は腕組みした。
「ほら、なんだか怖い事件が続いてるでしょ。インターネットの情報は信ぴょう性がないし、新聞のほうがいくらかマシかも」
「それもそうだね。少しでも良い可能性のあるものなら、悪くないかもね」
わずかでも可能性のあるものは試す。その逆もまた真なりで、可能性のないものには一切干渉しない。実に裕明らしいスタンスだ。
「よし! じゃあ決まり。それと、『誰が』契約したのか、確認しておいてね」
「もちろん。その契約書、見せてくれる?」
美奈子からペーパーを受けとった裕明は、そこに残された文字の筆跡を一目見るなり、
「あ……」
と声を出した。
「どうしたの?」
しかし、裕明は「ううん、なんでもない」と短く首を横に振っただけだった。