「東京都八王子市で発生している連続殺人事件は、今回で4件目になります。犯罪心理学がご専門の誠陶大学教授の足立浩司さん、犯人像についてどう分析されますか」
「そうですね。わたくしの見地から申しますと、犯人は学生の可能性が高いです。さしづめ、就職活動の上手くいかない大学生の犯行でしょう」
「なぜ大学生だと?」
「過度のストレスを安易に抱え、うっぷんのはけ口を被害者に向けるという手口。無駄にプライドが高く、そのくせ臆病なのが最近の大学生の傾向だからです」
「なるほど」
退屈なテレビでも、最近に限っては西郷にとって悦楽だった。こういう事件が起きれば、少しは新聞の売り上げは上がるし、テレビが的外れなことを言えば言うほど新聞の付加価値は上がるからだ。
ニュースキャスターはなおも続ける。
「防犯カメラに犯人らしき人物が映っているとのことで、解決には時間はかからないという警察内部の見解もありますが」
西郷が一瞬だけ瞠目する。
「あてにならないでしょう。レンズが西を向いている。基本の基本ですよ、日の入りからレンズを逸らすのは。この町内では自警団を組んだそうですが、素人がでしゃばるものではないと私は考えます」
(自警団? 時代錯誤もいいところだ。)
「足立さん、ありがとうございました。それでは、次のニュースです」
西郷は笑いをかみ殺し、テレビのスイッチを切った。
西郷の上機嫌の理由はそれだけではない。西郷はつい先日発見した、一通の契約書のコピーをデスクの引き出しから取り出すと、誰にもバレないようにほくそ笑んだ。
「おい西郷、ぼーっとすんな!」
年下の偉そうな店長から注意されても、西郷はどこ吹く風だ。
「あ、スミマセン」
てきとうに返事をし、上司の舌打ちをやり過ごしたのち、西郷は営業まわりに行くと告げて店を出た。
(間違いない。「あいつ」が、この街にいる。)