これはとんだスクープだ。このネタを大手メディアに売れば、当面は食うに困らない。あんな会社なんてとっとと辞めて、またジャーナリストとして身を立てていけることだろう。
そうすれば、あの気に食わない上司の鼻を明かすことも、人を見下してばかりの妻を見返すこともできるに違いない。
公園のベンチを陣取り、くたびれたスーツの胸ポケットにしまった契約書のコピーを取り出す。片手の缶コーヒーはこの蒸すような気候ですぐにすぐにぬるくなってしまうが、そんなことをどうでもよく感じてしまうほどに、西郷は興奮していた。
角ばった、それでいて流麗な筆跡。見間違うわけがない。あの頃さんざん目に焼き付けた文字たちだ。
あいつが獄中で書き綴っていた日記に塗りこめられていた憎しみたちを、俺が見逃すわけがないのだ。
「新神明町一丁目……」
西郷が契約書に記された住所を呟く。ここからそんなに遠くないどころか、まったくの徒歩圏内である。
「おっしごと、おっしごと」
薄気味悪い鼻歌を歌いながら、西郷はその住所地にあるマンション目指して歩き出した。