第五話 決意と覚悟

紅茶で気分転換に成功した美奈子は、それからすぐに机に戻り、原稿をどうにか仕上げた。六季社の営業終了時間の午後五時半ギリギリにメールを送ったのだが、すぐに小瀬戸から返信が来て、雑誌の制作スケジュールの都合で著者校正はできないがそのまま掲載できる、つまり原稿はゴーサインとのことだった。美奈子と裕明は、手を取り合って喜んだ。

脱稿のお祝いにと、裕明が納戸から古びたアコースティックギターを持ってきた。裕明の育ての父親である木内は、ソフトボールに並んで大の洋楽好きである。

神保町の古書店でソフトボール関連の本を買うのと一緒に、中古レコード店で隠れた名盤を安価で買うのが、面倒な学会出席を果たした際の自分へのご褒美なのだという。

アコースティックギターの腕前もなかなかのもので、自分が開業した「奥多摩よつばクリニック」のデイケアのプログラムで、ときどきその腕前を披露するほどだ。

そんな木内のそばで育った裕明であるから、木内から手ほどきを受けた彼もまたギターが得意である。裕明のギターはいつも即興演奏だ。美奈子のつくった歌詞のイメージに合わせて曲を作るのである。

美奈子は発声練習とばかり趣味でスマートフォンのメモ帳にしたためている自作の詩を朗読しはじめた。その作風にあわせて、裕明がCやEのコードを押さえると、美奈子は体をリズミカルに揺らした。

「イントロ、Aメロからサビはメジャーがいいね。Cメロとアウトロにあえてマイナーコードをさしてみようか」
「なるほど。じゃあ私は歌詞がメロディーにうまく乗るようにしてみるね」
「オッケー。いくよ」

空に七色の虹が架かるのは

きっときみが泣いたからだね

二人の日々に雨が降っても

水たまりに遊ぶきみがいい

 

私は大丈夫

私たちは大丈夫

きっとしあわせが

今日も明日もこの空の

青さの限り続いていくよ