最終話 きみはともだち

(一)

デイケアで木内がアコースティックギターを披露し、参加者から気持ちばかりの拍手をもらっていたところへ、電話の子機を携えた岸井が神妙な面持ちでデイケアルームに入ってきた。

「どうしたの?」
「皐月ちゃんから、あの子のことで」

岸井のためらうような口調と出された名前で、ただごとではないと察した木内は「ビートルズはまた今度ね」とギターを手早く片づけ、部屋から出て子機を受け取った。

皐月の口から、彼——裕明に起きたことが語られる。木内の頬とひたいには、ぽつぽつと汗が浮かんでいた。

「皐月ちゃん。それでも僕は信じてる。のんきなやつと思ってもらって構わない」
「こういうとき、大切なのは周囲の人が取り乱さないことだと思う。木内ちゃんがのんきなやつで本当によかった」
「はは。ありがとう」
「その素直さ、少しわけてほしいくらいよ」
「今ならお安くしておくよ。あのね、ひとつだけ僕からお願いがあるんだ」
「なに?」
「ローズメイの名にふさわしいことをしてほしい。これは僕のわがままかもしれないけれど」
「わかった。じゃあ、私からも言わせて」
「うん?」
「まかせて」

木内は思わず木製の天井を見上げた。視界の隅に、薄れてゆく飛行機雲がうつった。