エピローグ きみが生きているから

東京都の刑法犯認知件数は全国トップクラスである。件数こそ減少傾向にあるものの、一事件あたりの悪質性は増しているといって差し支えない。

この日も捜査一課の若き刑事、葉山と竹中、そして高田は残業をしていた。クリスマスイブの一件で、業務が富士山のごとく積み残っているからだ。

「お疲れさまですー」

ルイボスティーを淹れたマグカップを2つ、おぼんに載せて持ってきた若宮が声をかける。

「ありがとう、若宮さん」

葉山が笑むと、若宮は「いえいえ」と照れて、その場でくるりと一回転した。

「がんばってくださいね」
「うん」

葉山の手には、捜査資料として被害者の一部の写真が握られている。今、捜査一課が追っているのは、井の頭公園で発生したバラバラ殺人事件だ。

「殺人と死体損壊のコンボで、『夢の機械』対象かな」

葉山がいうと、竹中が怪訝そうな顔をした。

「なんだ? 『夢の機械』って」
「内緒」
「はあ?」

葉山が若宮に目配せすると、若宮は「えへへ」と笑って、スキップするように給湯室へ去っていった。


一方、給湯室では、美乃梨が隠れるようにセブンスターに火をつけていた。

「あれ、美乃梨、銘柄変えた?」
「うん」
「あ、お揃いってやつ」
「まあね」

美乃梨は、照れくさそうに笑った。


いつか、「その時」が来ても、私はちゃんと幸せだから大丈夫。あなたはあなたらしさを失わないで、どうか、その時はちゃんと私を惨殺してね。

私は、ありのままのあなたが好きだから。だからどうか、あなたはそのままのあなたでいて。

こういうのって、純愛とかいうのかな? 厨二かよって笑っちゃうけど。

でも間違いない。私は、あなたになら、殺されてもいい。これは間違いなく、純愛なんだよ。


きみが生きているから、僕は自分の性癖のことも認めてあげられそうだ。

きみが生きているからこそ、僕はありのままの僕でいられる。

でも、僕の中に厳然と、きみを手にかけたい欲求があることは変わらない。だからきっと、僕はいつかきみを殺すかもしれない。

それでも、僕はそういう気持ちと共存しながら生きていくんだろう。

 

もちろん、きみと、一緒に。

fin.