第十一話 「またね」
SNSをはじめとして、インターネット上で世界中と繋がることが可能だった時代、なぜ多くの人が「孤独」に苛まれたのか。 晴也は思うのだ。孤独自体に毒性があるわけではない。恐らくその時代の人々は、孤独と付き合い、味わい、共に在…
-->
SNSをはじめとして、インターネット上で世界中と繋がることが可能だった時代、なぜ多くの人が「孤独」に苛まれたのか。 晴也は思うのだ。孤独自体に毒性があるわけではない。恐らくその時代の人々は、孤独と付き合い、味わい、共に在…
楓子の不在に、小夜は激しく動揺した。しかし、蒼斗のただならない様子に、それはすぐに押し潰された。 蒼斗は、沈んでいく太陽を射抜かんばかりに鋭く睨んだ。 「……西へ。すべてのことは、道中で話す」 M-07に「蒼斗」という名…
山の天候はとても変化しやすい。天気予報になかった雨が降ることもしばしばだ。日没を迎えてラジオの放送が終わると、明は窓辺のランタンに火を灯した。 やがて蛾たちがふらふらと光に集まってくる。明はあごひげに触りながら口を大きく…
駅前ロータリーに大きな笹が飾られた。以前は市の事業の一環で設置されていたそうだが、「凪」以後は有志のボランティアたちが遠縁などを頼って、立派な笹を入手しているらしかった。 ボランティアが準備したのは笹だけではない。折り紙…
僕が彼の姿を初めて見たのは、朝靄けむる病院の入り口の花壇の近くだった。当直明けで、深い眠りにつくことができなかった僕のぼんやりとした視界に、しかしそれは鮮やかに飛び込んできた。 黒のダウンジャケットにジーンズ姿の中肉中背…
精神科医療の一環で、作業療法というものがある。革細工や塗り絵、編み物などの作業を通じて患者の精神心理機能の改善を目指す治療法のひとつだ。これを拒む患者は今まであまり見たことがなかったが、小川朱音という若い女性患者は、これ…
退屈な病棟の中では、しょっちゅう、しょうもない噂が流布される。彼が女性患者のノートを破った様子は瞬く間に広がり、「あいつはやっぱり危ない」という話がひそひそと聞かれるようになった。 別の日のカンファレンスでもそのことが話…
例えば他の誰かに、自分を知ったような顔をされて何もかもを解剖されてしまったら、それを心地よいと感じる人などいるわけがない。そもそも、精神科医の仕事はそういうものではないと僕は考えている。 中にはあらゆる論理を用いて患者の…
蝉の鳴き声に耳を預けながら、彼は中庭のベンチに一人座っていた。僕は彼を見つけると、「隣、いいですか」と声をかけて腰を下ろした。 「ここへ来て、もう半年になりますね」 ミンミン蝉の声がシャワーのように二人に降り注ぐ。夏の厳…
壁掛け時計の音だけが部屋に響いている。彼の両親はさっきからずっと黙ったままだ。彼もまた、俯いてじっと床を見ている。僕がどうにか言葉を出そうと思案しているうちに、部屋に住吉が入ってきた。そうして書類を机の上に置いて、 「ケ…