ド〜ナツ

覗き込まれると、なんというか、困る。照れるとか恥ずかしいとかではなく、困る。 それをわかっていて、きみは僕の瞳を——正確には虹彩を覗き込んでくる。覗き込んではきれいだね、と嬉しそうに笑う。 右の虹彩は青、左は金色。オッド…

短歌 叶

1 玉ねぎの皮を剥く手が止まらない流星群の夜のキッチン 2 サイレンは他人事として鳴り響く禁じられないシーソーゲーム 3 街宣車その勢いで火星までいってらっしゃいというさよなら 4 ツユクサの青をヒールで踏み潰す(公序良…

短歌 目

1 水槽の鯵と目が合う天国の入口にいると自覚している 2 夜空には無数の目玉もうやめて気が済んだって破裂しないで 3 ランドルト環のぱっくりしてるとこに指を入れたらぶにゅっとしてる 4 眼球がごろごろ惑う手を取って踊り明…

短歌 まつ毛

1 離れれば離れるほどに輝いてみえる故郷の最寄りのスタバ 2 頑張れは命令なんかではなくて代替不可な祈りの言葉 3 この爪も化石になれば誰かから求められると信じて舐める 4 触角も羽もしっぽも失ってそれを進化と呼びたがる…

秋202110(二)

いわし雲ひとそれぞれに旅立ちよ 秋桜よ逆風にこそ凛とあれ 破顔する母のまぶたに月宿る 赤とんぼ昔語りに寄り添うか 歳月よ山粧うか老いてこそ

1 UFOがいない証明ができずに実りの秋だ誰を責めよう 2 天狗からもらったサイン本として神保町の東に隠す 3 星の降る街に暮らしてふたりきり 部屋は狭いほうがいいと笑う 4 宇宙にも終わりがあると信じたい終わるとしたら…

サファイアの涙

お前がもうこれ以上傷つかないよう、石英硝子でできた籠にお前を閉じ込めてから、どれくらいの時間が経っただろう。 朝が来るたびに、お前はその白い羽を震わせてリーンと鳴く。どんな天使の歌声よりも美しく響くそれは、私を眠りから覚…

秋202110(一)

紅葉よ燃えて散るとは生き様ぞ 傘の帆に連なる露のきらめきよ 勇ましさ秋刀魚がどんとある夕餉 芒まで手を振り返す帰り道 三日月よふくよかな闇抱きしめて

1 ワイパーが動き出したら息を止めせめて時間を忘れさせてよ 2 シネマでは結ばれていたあのふたりブレーキペダル強く踏み込む 3 はじめからわかっていたよ花束は作り笑いを誤魔化すためと 4 味のないガムを噛むとき未練とはや…

長月

からっぽの籠に手を延べ小鳥発つ 秋の雲進めば影も道となる 月を抱く人よ熱まで閉じ込めて ありのまま明日を導く小鳥こそ 秋の雲うつろうすべて頬に受け