冬~春

約束が輝きを増す聖夜こそ 残り鷺孤独を辞書に刻んだか ゆく年に感謝を告げて涙明け 子どもらの秘密を知るよ雪だるま 鍋囲む笑い声まで美味い夜 目を閉じて心まかせてアゲハ蝶 散る花よいずれそちらへ口結ぶ 人は人思い知るのが卒…

短歌 忘れ物

1 伸びすぎた爪を切るとき残酷になりきれなくて過去が居残る 2 パーフェクト百点満点ですあとは欠けてゆくのを待つだけの刑 3 月見そば最初に黄身を潰すきみ なにが大事かわかっているの 4 光こそすべてであれと祈るひとまぶ…

短歌 破

1 はりつめたミルクの膜を破るときスプーンだけが知った背徳 2 飽きられたおもちゃを捨てるゴミの日に印をつけてあるカレンダー 3 クリスマス過ぎ去ったあと残されたサンタの脱衣を門松に刺す 4 平等は大切なこと死ぬことも生…

短歌 日常

1 踏切の遮断機が好きあの世とはこの世の続きと教えてくれる 2 初恋は片側交互通行の道路みたいにすぐにつかえる 3 朝寝坊してもいいって気がついた朝に限って頭は冴える 4 助手席は特等席だアクセルを踏んだら消えるボーダー…

銀の翼

神さまになんて、なりたくなかった。 今日の彼には、私の背中に銀色の翼が見えるという。映画館で流行りの作品を観ているときも、こじゃれたレストランでランチをしているときも、点灯前のイルミネーションが絡まった樹々の並ぶ舗道を歩…

短歌 三つ編み

1 いつの間に秋はどこまでいったやら知っている人は黙っている 2 三つ編みをほどいて笑う練習をするための部屋は虚無の在り処 3 鍵かけた日記の鍵を失くしたらあの日のことは永遠になる 4 冬だから飛び降りる場所も寒いしみか…

プレゼント

イルミネーションに浮き照らされた舗道を、小ぶりの箱を携えた男が歩いている。背筋をしゃんと伸ばして、規則正しい靴音を鳴らしながら。白い箱には真っ赤なリボンがかけられている。道を行き過ぎる誰もが、箱の中身は愛しい人への贈り物…

短歌 片想い

1 クリスマスまでにかわいくなりたくてワンピに託す時限爆弾 2 何してもきみが思考の邪魔をする好きにならせた罪を償え 3 既読からはや1時間返信の来ないスマホと沈没したい 4 告白の練習をしてクッションを壁に打つのが上手…

短歌 輝き

1 手に入れたとたん輝き失くすから大事なものは遠くから見る 2 苗字から下の名前になった日の胸の痛みを日記に残す 3 口ぐせを笑ってくれた人がいて冬の空にも虹が架かって 4 今度いつ会えるかなってLINEして既読を待てず…

ポインセチア

迷妄をさらけ出した空は 雲をさらって落暉を隠す 真冬に凍える部屋の隅で 漸くまぶたを開いたのに 光を求め扉を開けた途端 冷たく降り注いだ視線が 私の脳天をずんと直撃し 紅い徒花を咲かせるのだ 私の思考はやがて白濁し 流転…