短歌 打たれる権利

1 黒い猫として生まれて疎まれてそれでも雨に打たれる権利 2 街じゅうに傘の花咲く 正しさはどこにもないと数人気づく 3 銅像の濡れそぼっても堂々ともろてを伸ばす先の暁光 4 夜が明けてまだしとしとと降ってたら私たちきっ…

短歌 風

1 ライオンもウサギもヒトもみんなして心臓ひとつ風にまかせて 2 ラジオから聞こえたきみのSOS ごめんradikoじゃ一分遅れ 3 扇風機ひとりぐるぐると回って虚しいところが私みたい 4 飛べるはず空ではなくて影のほう…

アルバトロス

すべての痛みが 癒されるためにあればいいな すべての悲しみが 許されるためにあればいいな すべての傷という傷が 優しくなれるためにあればいいな 裂かれた皮膚は かさぶたを経て強く生まれかわるね 神様もあの世も知らないけれ…

わたしの初夏

【行事】 後悔も思い出であるこどもの日 背伸びした柱の疵に父笑う 母の日に贈る笑顔の花束よ 【時事】 距離を取ることもあるまい蛇苺 自粛してひとりでに舞うドーナツ盤 麻マスク手垢の意味を問い直す 【恋】 水玉の覚悟を決め…

短歌 魚

1 キラキラときれいごとほどよく光る死んだ魚のうろこみたいに 2 新鮮なうちに早めに召し上がれうらみつらみもねたみもすべて 3 痛覚がなくてよかったという人が舌鼓を打つあなたの残滓 4 泳がせていた筈のこいが消え去り幻を…

短歌 ふたり

1 溶けてゆくバニラアイスを目で追ってなんだかんだで気持ちに気づく 2 包丁を握るその手がもし私のためにあるなら怪我はしないで 3 きみの目に映るわたしはかもめの目をしてきみのことだけ見ている 4 帰り際「楽しかったね」…

∞×

私ね、あっちで生まれたの。生まれただけでまだ誰も手にかけたことがないのね。だからうまく影を伸ばせないし、助けを乞われたらいくらでもいうことを聞いてしまうの。優しいねって? そんなの褒め言葉にも貶し言葉にもならないわ。 妄…

メモリーカード

どこにもないはずの記憶がメモリーカードに保存されており私のいつかの嘆きも怠惰も独りよがりな悲喜劇もすべて残っておりました 誰からも忘れ去られた公園の錆びた遊具たちは互いにへつらうことをせず朽ちるのを黙って待ってただただ佇…

短歌 ピンク

1 明け方にピンク・フロイド聴くきみを迷惑なんて思わない 好き 2 影踏みで勝ったことない紅組も白組もみな混ざりあってた 3 旅に出たモモイロペリカン捕まり居場所はここじゃないと泣いてた 4 好きな色はと聞かれてピンクだ…

短歌 塩

1 他人事としてサイレンの声を聞くうちのスープはあったかいなあ 2 質問がないならこれで終わります(終わらせるのは何もかもです) 3 まぼろしの埋蔵金を見つけたらテレビクルーが来てくれるかな 4 闇堕ちは正規ルートの花道…