短歌 恋人
1 きみの住む街へと進む各駅に乗り換えるとき降る三連符 2 特別じゃなくてきみにとっての当たり前になりたいだけです 3 秘密って甘いにおいがするんだね「ごめん」だなんて通用しない 4 なにごともなかったみたく読書する文字…
1 きみの住む街へと進む各駅に乗り換えるとき降る三連符 2 特別じゃなくてきみにとっての当たり前になりたいだけです 3 秘密って甘いにおいがするんだね「ごめん」だなんて通用しない 4 なにごともなかったみたく読書する文字…
1 ドーナツの穴をのぞけばその先にいつも通りに壊れてるきみ 2 食べかけのドーナツでいい差し出せるものはなんでもきみからほしい 3 腕時計だと思ってたよく見たらちっさなオールドファッションじゃないか 4 また一個余ってし…
ガラス瓶を割って青春のノートを引き裂いて思い出の歌を燃やして、それでも無傷の世界を憎んだ。勝手に祝福されている季節が容易く流す光が乱反射して、有象無象の天使たちにウケている。 僕は命を度外視して、悲しいことがあると平気で…
アイキャンフライ、アイキャンフライ、どんなに唱えても悲しいだけなら、せっかく狂った甲斐がない。傷を負えば負うほど輝きを増すから、人のこころというのは厄介な仕組みをしているね。ときにその光に眩んで、大切なものを見落としてし…
悲しいニュースが流れると、彼はグラス一杯の水を飲む。まるで厳かなルーティンのように、蛇口をひねる音がすると、私に微かな焦燥が生まれる。 私たちの知らない街で、私たちの知らない人が殺害されたらしい。事実がこれでもかと粉飾さ…
1 わがままを許してくれた夜のこと永遠にして胸に沈める 2 きみの目のなかの私はなぜかしらいつも寂しい顔をしている 3 トンネルを抜けてはじめて助手席のきみの涙の意味がわかった 4 秋風は出せずじまいのお手紙の正しい弔い…
失うべき音が一つも無い朝を迎えて小鳥が窓辺から飛び立ったその瞬転、誰かが垂れ流した幸せの残渣が見事に私の胸に沈殿しました。 それから、在り合わせの言葉と、間に合わせの言葉と、出来合いの言葉とが、非常に都合のよい状態で昼時…
私はこのどうしようもないナルシシストを慰めた。楕円形に何度も額を撫でて、「あなたは悪くない」と。 彼は満足そうに足を組み直すと紅茶のおかわりをせがんだ。私はなんとか眠い目をこする。十六夜だから仕方ないのだ。 彼はレモンス…
秋の夜長に眠れない不肖のわたくしは、ベッドの上でただ一人きり、泣けないピエロの真似事をする。 (それを見ていた月うさぎは、紅いお目目でこちらを睨んでいた。) 下手な笑みが嗚咽に変わる夜には、全部お前が悪いぞといっそ責めて…
夏が逝ったとの一報に、川辺のススキどもは痙攣して笑っていました。私はその光景を茫然と眺めました。いつかの帰り道の出来事です。 それから間もなく、立ち尽くす場所を求めて私は記憶を捨てるために湖に出かけました。 枯葉と一緒に…