第三話 マフィン
「あの、スミマセン……お客様……その……」 真弓が口ごもっていると、中野は「あーあーあー、」と手をひらひらさせて、 「真弓ちゃん、気にしなくていいよ。よくあることだから」 とフォローに入ってくれた。 「え、でも」 「気に…
「あの、スミマセン……お客様……その……」 真弓が口ごもっていると、中野は「あーあーあー、」と手をひらひらさせて、 「真弓ちゃん、気にしなくていいよ。よくあることだから」 とフォローに入ってくれた。 「え、でも」 「気に…
「アリスの栞」でのアルバイトが決まった旨を、さっそく真弓は両親に報告した。 「うん、明日から。家賃はカバーできそうだよ。卒業前には海外旅行にも行けるってさ」 電話口の母親は、「それはすごいね」と笑い、 「体に気をつけてね…
東京都の西の隅っこの街のはずれにある、とある本屋。真弓がこの本屋でのアルバイトを決めたのは、今月入学した大学と一人暮らしのアパートのちょうど中間という好立地に加えて、カフェが併設されているからだった。 真弓は自他ともに認…
反転した! 何もかもが 私に断りもなく反転した! 敵だと思っていたミーコちゃんは猫だった 好きだと疑わなかったコーラは無害だった ヒットチャートが上から紹介されていき 無関心こそが愛であったと息を絶やして 神様から順番に…
1 死にたさは生きたさですと教科書に載っていたから絶対に嘘 2 階段が天国にまで続いててああよかったなって一歩踏み出す 3 目の前を通過列車が過ぎてってあたしのこころだけ轢いてった 4 帰り道赤信号だけを選んで歩いたけれ…
1 ふりこって誰がどうあれあるがままふれているから羨ましいな 2 心臓の奥の奥より奥のほう 君が粗末に捨てたまごころ 3 優しさは流行らないから味のないガムを選んで渋谷を歩く 4 ふたりして爪を噛むからふたりしてひとりぼ…
私が覚悟を決めあぐねているうちに、あなたは新宿駅の新南口からよく見える位置の植え込みで全身を電球と電線で巻き付けられて、寒くなれば空気の冷たいほうがイルミネーションがよく映えるんだよと付き合いたてのカップルが恥じらいなが…
やせがまん モンブランまで敵とする 口笛を聞いてくれるよ秋の雨 もうドアを閉じてしまうね吾亦紅 突き詰めて結ぶりんどうの紫 お願いよ海猫帰るまでここに さよならがなぜに尊い藍の花 愚かさに輪をかけてゆく夕化粧 …
寝過ごして出会う高尾の山紅葉 台風はため息までも奪ったか 生秋刀魚 次会う時が百年目 銀杏が隣で爆ぜて緩む頬 焼き鳥が旨いお店の名が花鶏 秋桜と生き急ぐのを競いあう 冬支度 母となれない虚しさと
なぜかしらあなたは私にあまねく了解可能な理由の明示を迫ってくる。そんなものは仮に存在してもおおむね嘘なので「冬か来る前にあなたへ手紙を宛てるんです、奥多摩の小さな美術館の隅に飾ってもらえるよう」と柔らかく抵抗すると、あな…