第四章 その手から零れ落ちる羽
【某年某月 獄中での手記】 いつから、僕は自分の影に囚われ、自分の翳に飲まれたのだろう。それとも、これが僕の本当の姿だったのだろうか? だとしたら、きっと僕は幸せだったんだろう。 彼女が教えてくれたのかもしれない、僕の知…
【某年某月 獄中での手記】 いつから、僕は自分の影に囚われ、自分の翳に飲まれたのだろう。それとも、これが僕の本当の姿だったのだろうか? だとしたら、きっと僕は幸せだったんだろう。 彼女が教えてくれたのかもしれない、僕の知…
冷たい廊下に甲高い靴音が響く。狭い空間によく映える鋭い音。それがテンポよく聞こえてくる。彼は読んでいた本から目を離し、来客を待った。カツカツという靴音は、彼の部屋の前で止まる。 一呼吸置いてから、来客は静かに彼にこう言っ…
ミズ・解剖医が気だるげに白衣を着替えながら話しかけるのは、一人の迷える仔羊だ。 「つまりは肯定されたいわけね、あなたは。肯定には色々オマケがついてくるから。いい点数、高いお給料、羨望の眼差し。でも誰から? 世界から? 世…
篠畑礼次郎はスープを掬う手を止めた。しばし微動だにしなかったのだが、たった今受けた報告をもう十分に咀嚼したのか、一人で頷くと 「資料はありますか」 そう若宮郁子に訊ねた。若宮は青ざめた顔色を戻せないまま、おぼつかない手つ…
これは、紅茶がさめるまでに語られる、「本当の彼」が「彼女」と結ばれるまでの暇潰しにもならない物語。 【悪夢の演出家より挨拶】 最初に告げておきましょう。僕は一介の演出家に過ぎません。この白い箱には約束という名の極上のプレ…