第二章 洗脳の方法(三)

クリニックのロッカールームの奥に、「ボイラー室」とわざとらしく表示された鉄製の扉がある。これは外とも繋がっていて、外から入る場合は「倉庫」とだけ書かれてある。ミズは朝に受付のおばちゃんから受け取った鍵を突っ込んで扉を開け...

第二章 洗脳の方法(二)

その日の朝も、ミズ・解剖医は鏡に向かい口紅を塗りながら、惰性で朝のテレビニュースを聞いていた。 「……警視庁は先日、同庁刑事の葉山大志容疑者28歳を、器物損壊容疑で書類送検し……」 何、身内さんが捕まったって? ふーん。...

第二章  洗脳の方法(一)

ミズ・解剖医が気だるげに白衣を着替えながら話しかけるのは、一人の迷える仔羊だ。 「つまりは肯定されたいわけね、あなたは。肯定には色々オマケがついてくるから。いい点数、高いお給料、羨望の眼差し。でも誰から? 世界から? 世...

第一章 幻想即興曲(三)

「いやぁ、似合いますね」 篠畑の社交辞令に、若宮は「どうも」と棒読みで答えた。若宮はいわゆる「キャリア組」のため、本来ならば現場で指揮を執る立場にいるはずの刑事である。だが、父親の遺志を継いで刑事になった彼女は敢えて「現...

第一章 幻想即興曲(二)

篠畑が連続自殺教唆で死刑宣告を受けてから半年後。唐突に執行の日はやってきた。絞首台の上へと、両脇を執行官に抱えられながら、篠畑は死の階段を一段ずつ上っていた。「まるで人生を振り返るように一歩一歩、噛みしめるように上ってい...

第一章  幻想即興曲(一)

篠畑礼次郎はスープを掬う手を止めた。しばし微動だにしなかったのだが、たった今受けた報告をもう十分に咀嚼したのか、一人で頷くと 「資料はありますか」 そう若宮郁子に訊ねた。若宮は青ざめた顔色を戻せないまま、おぼつかない手つ...