5 オムレツ

僕の異変にいち早く気づいたのはアオだった。 「ケムリ、どうしたの。なんだか苦しそう」 拍動がひどく速くなり、僕は激しいめまいを覚えていた。招かれざる客——ミズの姿が歪んで見える。 キボウの消滅。それは、正真正銘の人類の滅…

4 柿

その女性は僕が淹れた紅茶を一口飲んで、食卓テーブルとセットの木製の椅子で脚を組み替えた。 「ベルガモットがまるで飛んでる。白湯の方がまだマシね」 「それはどうも」 「褒めてないわよ」 「わかってます」 さっきからノイの様…

3 紅茶

「この枯葉の入った缶はなに?」 珍しく僕の家事を手伝っているアオが、掃除の際に見つけたのは小ぶりの茶筒だった。戸棚がわりに使っている、かつて書類を仕舞っていたキャビネットの中にあったため、ほこりをかぶらないでいたようだ。…

2 実

季節、という概念が消え去ってどのくらい経っただろう。困ることといえば、その日の気候や温度の振れ幅非常に広いため、着る服に毎日注意を払わなければならないことだ。 かつては気象を予測可能な情報、つまり予報として伝える職業もあ…

1 シチュー

少女はやや乱暴な所作で僕の作ったシチューをあっという間に平らげた。 「おなか空いてたの?」 僕がそう問いかけると、少女はスプーンを半ば叩きつけるように器に戻した。 「別に。出されたから食べただけ」 「そう」 アオがスプー…

プロローグ ひかり

世界の終わりのそのあとに、僕たちは小さなレストランをはじめた。 光の残骸は生命だから、生命は光に焦がれ光を求めるというアオの仮説は、なかなか興味深い。薄暗い倉庫の片隅に放置された錆びた鳥かごを僕が持っていたペンライトで照…