タグ: 短歌

わがまま

1

わがままを許してくれた夜のこと永遠にして胸に沈める

2

きみの目のなかの私はなぜかしらいつも寂しい顔をしている

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トンネルを抜けてはじめて助手席のきみの涙の意味がわかった

4

秋風は出せずじまいのお手紙の正しい弔いかたを知ってる

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梨を剥く指先でさて幾人のこころを葬ってきたでしょう

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無難さがトレンドとして跋扈する ときに誰かを轢死させつつ

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「がんばれがんばれがんばれがんばれ」お願いだからもう許してよ

8

日が沈むただそれだけを理由とし分裂をする僕の認識

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うずうずと甘いスタバの新作にあたしはすべてを委ねている

10

舌を出すときの少しのためらいが僕があなたを愛する理由

唐揚げ

1

花ひらくそのモーションは容赦なくあたしを奪う 誰か助けて

2

優しさが崩れる瞬間(とき)に口走る「ごめんなさい」は脅迫として

3

朽ちた枝さえ必要とする虫がいる 生きるばかりのあたしよりもだ

4

「役に立つ」が礼賛されて寄る辺ないあたしの影は踏みつけられる

5

信じれば信じるほどに滑稽に映るテレビの中のほんとう

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今日もまた無様なあたしとして終わる 予告編にも無様なあたし

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がむしゃらに走ってきたら失くしものばかり もう進めない おやすみ

8

頭からかじりつくとはやりおるな たい焼きで知るきみの本性

9

唐揚げは奇数であった 我々の何かが試されている今夜

10

大丈夫僕も死にたい今日だからなんとなくでもとなりにいるよ

星くず

1
(さよならを忘れたみたい)奇遇だね僕もどこかに落としたみたい

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曇天を裂いたひかりをこめかみにあてて神さまごっこする午後

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いつの日か同じ家路につけたなら今日の痛みも記念としよう

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コーヒーに溶けたミルクをかき混ぜず言い訳が済むのを待っていた

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へたくそな口笛すらも今はもう遠くで響く玉川上水

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明滅の赤信号をふたりして呼吸を止めて眺めていたね

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今まさに踏んだ大地も誰かの血、骨、肉、髪の毛、思い出話

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枯れ朽ちたひまわり専門処理班は都合次第でお仕事をする

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答えまで知りたがるのか問題がどこにあるのかさえ知らないで

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生きているほんの刹那だ恥かいて笑われたっていずれ星くず

蝶々

1

蝶々がひらりひらりと好き・きらい 占うためにむしりむしりと

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命とは思えないほど美しく命とは思えないほどに儚い飛翔

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翅があればどこでも行ける気がしてた虫かご埋める元いのちたち

4

薔薇さえも朽ちるを知って手の中で欲しがることを諦めている

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とげのない花だからこそ美しく凛とあるまま愛されてゆく

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確実に手折る秋桜 悲しいと誰かのせいにしたくなるから

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愛してるのは構わないそれよりも先週貸した千円返せ

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すすきどもからから笑う川辺では孤独はポイ捨て禁止らしい

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きみはまだ矛盾に気付いていないのか収録済みの「緊急検証!」

10

黒鍵に触れる指先にみとれて気づけばピアノになってた 弾いて

猫背

1

まばたきを忘れてました目の前できみがアイスのふたを舐めてて

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線路沿いすすきが群れて揺れておりそろそろ壊れていいと気づく

3

ななめったパンタグラフが通過したあとに居残るあの日のふたり

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坂道の頂にいてこの手にはなにも残りはしないのだろう

5

「守るものひとつくらいはあるでしょう」そう脅されて手にかけました

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この猫背笑ってくれたきみは今両手を組んで収まっており

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スカイツリーから見下ろす街はジオラマ 嘘を継ぎ目に使用している

8

ああまたか美人がボロを出すときになぜかいっつも立ち会っている

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雨雨雨 雨雨雨 まだ雨雨 ひとりぼっちの夜長は雨雨

10

もしきみが帰りたいならドアノブの螟蛾を土産に持っていくべき

予報

1

今日はまだ一人でいたい気分なの豪雨予報はいつも外れる

2

予報には誰かが降ると書いてありたぶん私のことなんだろう

3

低気圧ばかりが胸に去来してしととまぶたを濡らしてばかり

4

涙よりしょっぱいものがあるものか人はそれらの貯蔵庫である

5

逆時計回りする羽を見つめ先に失神したほうの勝ち

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改札へ向かうひとの中には必ず殺人鬼が紛れるから街

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合い挽きの残酷性はさておいてハンバーグなら私の好物

8

なぜ骨というのか傘は折れたならもう歩けない気がするじゃんか

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二人称「あなた」になったその日から世界で一番の臆病者だ

10

鱗粉を撒き散らすように容赦ない愛情詰まるしそハンバーグ

1

さなぎから孵れなかった者だけが曇天の日に笑ってもいい

2

黄信号でアクセルを踏むきみだからひとのむごさをよく知っている

3

助手席で雨の予報に気がついて横顔見るともう降っていた

4

写真館にて留められた「今」たちが手招きをして昔を語る

5

上手く生きられずにごめんなさい僕の歩く道には椅子が足りない

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水槽の中でなら凛と生きられる肺呼吸には向いてない僕

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メロンパンにメロンが入ってないように既成事実はよく嘘をつく

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よく見ると数がおかしい気もするがみんなピースの集合写真

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許されるための「ごめんなさい」なのに命令形なのはなぜなの

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バス停で雨宿りするふりをしてきみを待ってたなんて言えない

新宿

1
世紀末みたい金曜日の夜は(なかったことにできたならいい)

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新宿にシンジュが隠れていることにもう意味がない すべてきらめき

3
西口のネオンサインの暗いとこ そういうふうに生きていけたら

4
本当は寂しいくせに「助けて」が言えないひとの冷たい夜長

5
新宿を始点に走る箱たちは西へ西へと許されてゆく

粉々

1

手のひらに星を閉じこめ大丈夫いつかいつかと言い訳をする

2

風船が割れてしまったと泣く子のサンダルの下にバラバラの蝶

3

すすきの穂だらんと揺れて手まねきと認識をするぼくの瞳孔

4

すずなりのぶどうひと粒もぎるあの感触と似てこときれるきみ

5

夏がもう逝ってしまった証明としてきみの口角が上がっている

6

ワイシャツの袖にほつれた糸がなぜ真っ赤なのかは決して問わない

7

脳天に花が咲いたら水遣りはきみに任せる スケッチもしろ

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飛べるはず飛べるはずなの飛べたならきっと自由になれるはずなの

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ポケットのなかにはビスケットがひとつ♪叩いてみたなら粉々になる

10

狂っても構わないけどどうせなら食器洗った後にしなさい

1

骨だけの傘を広げ歩くきみのとなりでちゃんと泣いてる私

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悪人(とされる)ひとが捕まってそれでも誰も救われぬ街

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唇がそういう場所と知った日の麦茶の苦さを忘れられない

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扇風機は居場所をなくしバラバラにされるところが私みたいだ

5

枯れかけのサボテンあすは水曜日たしか燃えないゴミの日(ごめん)

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ポケットにいつかのレシートがあったらレゾンデートルとしてほしい

7

蝉どもは秋を知らせるためだけにいっせーの、せで地面に落ちる

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秋だから今日はもう夏じゃないから寂しくたって間違ってない

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ほらあそこたった今星が生まれたとつぶやくきみの小指がほしい

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きらめきは正しさじゃなく間違いや傷や叫びや痛みの類語

theザ座

1
今はただ瞳を閉じていたいんだ 流星群は夜空の自傷

2
夜空にも居場所がないので寂しさをきみの隣に置いておきます

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光から逃れ逃れて部屋の隅 水槽の中で笑う夜光虫

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振ってからコーラを開ける冒険に出ようきみから開けてごらんよ

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左手に二度と消えない傷あととやり直ししかしない親指

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雷鳴が空の怒号であるならば僕だけに聞こえればいいのに

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宵闇を裂いた光はワーゲンのフロントライト きみが泣いてる

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定期券がもし切れたならまたひとつ生きる理由が増えてしまうね

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夜空からきみが降る日を待っている 骨の折れた雨傘を携えて

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もしふたり星になれたら「Theザ座」ってふざけて名乗りずっと居ようぜ

自由

1
水槽がひとつ置かれた部屋にある「自由」を喧伝するポスター

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夏末期ああ自由へと発つために屋上の鍵を早くください

3
つけっぱなしのテレビとスマホを消せたら自分の停止ボタンも押せる

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酷似したくらげは同じラベルを着て自由も知らず出荷されている

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水槽の隅にあなたが浮いていた 悲しくならないことが悲しい

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呼吸がつらい きちんと空気読み笑われぬよう努力したのに

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この世には地獄と呼ばれる場所がある 合わせ鏡を嗤ってごらん

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つまらないことをしました「自由」をいま生き抜くために手にかけました

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どうせならからだもころせ こころだけ死んでいるのは美しすぎる

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もしくらげが自由を識れば街はパニック(私は自由)(きみはどうだい?)