分けあった季節

豊穣とは、枯れ朽ちる手前のいっときの喜び。祝福された実りを手にする人々にとって、収穫とは、その喜びを分けあう、かけがえのない作業だ。 幼馴染のフレイは、あどけなさの残る頬に土ぼこりをつけながら、僕の家の果樹園の収穫を手伝…

まんまる

私は浮かんだことがある 心を逃した先に居た 完全な球体と一緒に 美化されがちな夏アルバムの 読み飛ばされる一ページに 名前を与えられることもなく 極彩色のクレヨンで塗り潰された ちゃちな汚れ 神さまのこと 打ち上げ花火の…

今日の短歌 予感

1 甘噛みのあとで目が合うカーテンを揺らす涼風だけが知ってる 2 火の揺れるのを見つめてる予感とはたぶんあなたのまばたきのこと 3 ろうそくの火を吹き消してさよならは夏に対してだけ告げたはず 4 水槽を覗くふたりは寂しさ…

今日の短歌 ポルボロン

1 手放した風船高く消えてゆく傷よ痛みよ光に溶けよ 2 三連休しずしず過ぎるできたての口内炎もちゃんと愛しい 3 愛なんて口走ったらポルボロン奇跡も嘘も必然のうち 4 からっぽの金魚鉢にも茜さす香りの失せたミントガム吐く…

短歌 大雪

1 Bメロを繰り返してる口笛が金曜の夜の雪に消される 2 「積もったね」返事をせずに訥々と雪を人さし指で追ってた 3 新雪に初めて足跡つけたからそこからここは支配空間 4 コンビニのおでんが今日は優しくて窓の外では雪降り…

短歌 二月

1 傷つけた人の顔にはモザイクをかけやり過ごす二月の短さ 2 泣きたいと泣くの間の距離感を埋める二月の生ぬるい風 3 花ですか、それとも可能性ですかきみが二月に失ったのは 4 ただ画面のなかに映る海があり見つめるだけのぼ…

今日の短歌 レッドアイ

1 「愛してた」なんて過去形はいらないメタルまみれのプレイリストに 2 回転をやめないミラーボールああライブハウスに骨を埋めたい 3 鮮やかにぶたれるドラム昔から優しいだけじゃなかったんだね 4 東京は人がたくさんいるけ…

今日の短歌 傷つけたい

1 大丈夫われわれはみなポンコツだこの痛みさえいつか笑える 2 復讐の計画を立てるよりラジオネームを一緒に考えようよ 3 半分こしたどら焼きの少しだけ小さいほうを選ぶのがきみ 4 面取りはまごうことなき愛情だ大事なことは…

オリオン座と嘘と

オリオン座を寒空に見つけた。僕の中で、果たされない約束が白く凝固していく。日々は容赦なく流れていくし、時の波に押し流されて、若さとやらも既に失われつつあるようだ。 「愛情とは自らを定位置に投影するための曖昧で不可解な感情…

天体観測

秋川浩輔あきがわこうすけは自分に課せられた使命を自覚して以来、規則正しい生活を心がけている。風邪など引くわけにはいかないからだ。 毎晩していた晩酌もやめた。惰性で動画を観るのもやめた。毎朝6時に起きて、新聞に一通り目を通…