オリオン座を寒空に見つけた。僕の中で、果たされない約束が白く凝固していく。日々は容赦なく流れていくし、時の波に押し流されて、若さとやらも既に失われつつあるようだ。
「愛情とは自らを定位置に投影するための曖昧で不可解な感情である。この仮説が正しい場合、私たちが結ばれないわけを説明せよ」
数学が得意だった僕だったけれど、どんな数式をもってしても解けなかったんだ、君に羽が生えた理由を。
0か1を迫る世界で揺らめく君の1羽は、電子の砂嵐に侵されてすぐに穢れていくだろう。手垢まみれの言葉に溺れて、比較論の中だけで幸福を定義しようとするだろう。∴僕の愛した君はもうどこにもいない。
未練と後悔は極彩色だ。歌うように軽やかに鮮やかに僕の心をえぐっていく。わかっているのに、過日の君の笑顔を期待してしまうけれど、その姿を貶してくれる君は、もういない。
そうだ、愚鈍な季節に生を受けた僕だから、こんな幕切れがお似合いなのかもしれないね。∵僕は生きているから。僕は生きていくから。
君が去った後の夜空には、オリオンが厳かに坐している。僕は寒空の下、寂しさに耐えられそうにないので星々に笑いかけた。
……せめて涙を流せたら、約束は守れたのかな。そんな詮のないことを逡巡してしまう。
「ずっと一緒だよ」
なんて、ただの嘘だった。
己の無力さを思い知らされたあの夜にも、オリオン座は輝いていて、宵闇はすぐそこで舌を湿らせていた。全て知っていたのに、わかっていたのに、僕は僕を忘れた君を許すことができなかった。それこそが僕の弱さに他ならない。
「ズット イッショダヨ」
夜に飲まれ嘘に侵される僕が、このひび割れた影から、ゆっくりと不気味な方角と意味へ傾き始める。
その姿を笑ってくれる君は、もういない。