第一群  黒 蝶

診断不能、なのだそうだ。現代の医学では奇跡は解き明かせないということだろうか。

樋野麻衣子は、指先から徐々に体が黒蝶に変化する病に冒されている。病名はまだない。極めて希有も稀有、それもそうだろう。

「ありえない」というのが白田真水の第一声だった。

しかし、目の前で彼女の指先が蠢いている。彼は目を疑った。黒蝶と指先の結合部分には、ちゃんと神経が通っていて、ある程度麻衣子の随意で動く。

だが、蝶は蝶の意志をもって動いているのだ。そして、ほんの少しずつだが、蝶だけが独立していく。

今、麻衣子には中指の第一関節から先がない。黒蝶となってどこかへ飛び立っていった。