最終群 一 緒

秋の次には冬が来て、冬に飽きたら春になる。その繰り返し。ただただ、彼らは見送ることしかできない。

それでも、遺された者達には「生きていく」という使命がある。たとえ誰がどこで嗤おうが、貶そうが、彼らはその使命を果たす為に、永遠も奇跡も、その存在を信じない。

あれからも真水は相変わらず、多忙な日々を送っている。そんな毎日の間隙にも、趣味が一つ増えた。道端の草花の名を覚えることだ。今まで、見向きもしなかったけれど、

「あ、オオイヌフグリだ」

春の訪れを予感させる、愛らしく小さな青い花びら。

「こっちは、エゾエンゴサク、ね」

この春から真水のもとに研修で入った若い研修医は、首を傾げた。

「精神科医療に、花の名前なんて、知識として必要ですか?」
「さあ、どうだろうね」

見上げた空は、突き抜けるような青空。

「春を知らないここの人たちに、いつか伝えたいんだ」
「何をです?」
「約束だから。春は、必ずやってくるって」

射し込む日差しは、少女の微笑みのように柔らかい。