短歌 満ちてゆく月

1 月明かり左手首の傷痕に名前を付けた 消えないように 2 偏差値が偏見差別の値だと気づいた人に満ちてゆく月 3 月のない夜にランパトカナルする いのち、いのち、いのち、いのち 4 搾取する/される関係 ハウツーのどこに…

短歌 指先

1 送信を取り消しました の跡あり猜疑心さえあなたゆえなら 2 鎖骨からまぶたにかけて指先でなぞられたなら地球が止まる 3 唐揚げを持ち帰る夜ふたりして風になれたらいいね冬だね 4 流行語にはなれないと思うけどあなたの指…

デート

1 楽しいね楽しいねって連呼して楽しいはずと言い聞かせてる 2 風船の割れる音までそそのかす あたしあなたを裏切るかもな 3 楽になるのと楽をするとの間の距離がまさしくあなたとのそれ 4 白ワンピ今宵あたしは本気です汚せ…

少女

1 ブランコを思い切り漕ぐ大人にはなりたくなかったつま先で蹴る 2 「ジュラ紀にもいじめが存在したらしい」「変わらない良さがありますねえ」 3 鉄くずが人工衛星だったころわたしもみんな大好きだった 4 雨の日の少女鏡に懐…

M

1 一滴の染みを気にする君なのに今宵笑って雨に打たれて 2 ボージョレを飲み下すのど動くたびグラスを割って溺れたくなる 3 許されるために上書きをしてゆく記憶(ずるいだけだよ) 4 塩味を涙の味と言い換えて感動的なポテチ…

短歌 ニュース

1 「川はみなやがて海へと還るから寂しさからは逃れられない」 2 トレンドを気にする前に思い出を燃やすべきです深呼吸して 3 (いくら手を伸ばしたところで届かない)知りたくもないニュース速報 4 フェイクファーだと信じて…

1 空も見ず中指ばかり舐めるひと悲しいことがあったのですね 2 モノクロの虹がかかった空に向け青く染まった舌を差し出せ 3 また空を飛ぶ夢を見た月曜日変なうさぎが隣で寝てる 4 唐揚げにレモンかけるか問題を解くため大空目…

私に手紙をください

見上げれば半月が もう半分の可能性を殺しながら ぽっかりとろりと孤独を浮かべて 見下ろせば人々が 内臓と骨と血と神経を運ぶため あうあうと喘ぎながら歩いている 位置情報をオフにして Wi-Fiから逃れて 野鳥の飛影に目を…

晩秋202111

ぬくもりよ秋の小径で繋いだ手 帰りみち母と踏みしめ落ち葉鳴く 紅葉よ時よ止まれと伸ばす影 夕まぐれ一歩一歩と秋熟れる 秋風が運ぶ戸惑い初恋よ

例外

1 いつか来る別れのために歯を磨くショートフィルムに収まりたくて 2 抱きあえて僕らよかったいつの日か別れが来てもこれは永遠 3 思い出になるくらいなら赤ペンででっかいばつをつけてください 4 たいていは「いい人だった」…