名前を呼ばれても

挨拶のない夜明けに
一途な愛の現在位置を確認した
己の愚かさがよく溶けた
アイスソイラテが美味しい午後
しあわせ、と口にすれば
ひたいの玉の汗が笑いだす

暑いですねぇ
ひところはコートも着ていたのに
まだ憂鬱は膝を抱えて
また衝動は舌を舐めて
私になり代わっていく
19歳の夏を覚えているか
お前はどうしようもない阿呆だった

ツユクサごと雑草が刈られるときの
あの匂いがどうしても苦手で
雑草をせっせと編むときの
あの手つきがなんだか恐怖で
(雑草にさえ名前があるのかよ)

くださいなんて言わなかったのに
名前を与えられて以来、
私は名前で呼ばれる
名前とは私らしくて
だから笑顔で振り向いた

誰もいなかった

ネームプレートに見慣れた文字
私を示す名前が
ベッドサイドにかかってて
天使たちが楽しそうに眺めては
くすくす、くすくす、
笑顔で通り過ぎていく

私はベッドの上で
腕を伸ばしてみる
天国があるはずの
優しい方向へ腕を

ヒステリックなベーシストと
サディスティックなドラマーと
ペシミスティックなギタリストが
私に音を与えてくれた!
スポットライトは我が胸の奥に
ほんのり小さく灯されたのだ

欲しかったのは
名前ではなく
音楽だった
安穏ではなく
諦観だった

だから私はこうして歌った
阿呆のまま叫んだ
誰に疎まれたところで
そんなことはもう
どうでもよかった

それで不惑を過ぎた私はどうだ
ちゃんと憂鬱でいるか
ちゃんと衝動はあるか
ちゃんと歌えているか
ちゃんと阿呆のままか

私は名前を呼ばれても
もう決して振り返らない
固く結んだ心を車窓に映せば
永遠と同じ顔が映っていた