惰楽器

私はあなたに
もう正論しかぶつけられないのだ
二度とあやまつことさえもできないと

歌を歌っても
愛してるよりさよならの数の方が
多いことに気づいてはならなかった

(後悔するために
……継続される呼吸)

正論としておめかしされた
怒りや不条理や混沌や闇を
パウダーシュガーに纏わせ
口あたりがよくなればほら
誰もが正論のとりこになって
既に光らなくなった蛍とか
鳴かなくなった鈴虫たちや
電飾を巻きつけられた桜を
思い出すことすらしないで

きれいねぇ!

って手を叩き喚くのだ((
ところで——耳鳴りにも
懐かしい声を聞きました
もれなく人間というのは
地球に抱かれてやがては
楽器になれるのですから
もはや幸せ探しなんて!
時代遅れなんでしょうね

よく熟れた果実を放置して腐らせる
ありのままでいいとはそういう意味
剥がれかけのペディキュアが告げる
夏はすぐに復讐にやってくるだろう

どうせ打たれるならば
あなたからがよかった

答えだけを求めるピにはわかるまい
旅人がなぜ帰る場所を失ったのかが
どうでもよいことばかりが跋扈して
私は欠伸をかみ殺すのを諦め涙する

飽きることにも飽きたら
血の通った惰楽器として
私はまたぞろ電車に乗り
自分の言葉を打ち鳴らす
識者がそれを自傷と呼び
処方箋が発行されるのは
なんという遊びですか?

あなたにぶつけた正論が
いとも容易く返ってきて
(これも私のせいだ)
私はただ惰楽器の音色を
秋の深まりゆく鼠色した
街に響かせているのです