第二群  聖 夜

冬の時の刻みは早い。あっという間にクリスマスイブだ。街の喧騒はいよいよ激しく、あちこちで競うようにクリスマスを祝っている。いや、騒いでいる、と表現した方が正確かもしれない。

真水は、征二に外出の許可を出した。特段、症状が改善したわけではない。医学的な側面だけで言えば、征二のコンディションは常に乱高下していて、相変わらず独り言も多い。しかし、そんな征二が、年に2回、外出を真剣に懇願することがある。それが、クリスマスイブと、彼を愛した恋人の誕生日だ。

征二の恋人は、敬虔なクリスチャンだったという。それに倣って、征二はクリスマスイブの礼拝には必ず、高円寺の教会まで足を運ぶことにしている。

「温かくして出かけてくださいね」

真水は、コートを着込んで準備万端の征二に声をかけた。

「ありがとうございます。行ってきます」
「但馬さんも、よろしくお願いします」

但馬真由美は、時折征二に付添う、ベテランのPSW(ソーシャルワーカー)だ。年齢は征二と親子ほども離れている。

「わかりました。工藤さん、もう出る?」
「はい」
「じゃあ、7時には戻りますので」

真水は微笑んで頷いた。