第三群  再 会

年に一度、紅白歌合戦だけは、消灯時間を過ぎてもテレビの視聴が許可されている。それは、普段の「消灯夜9時」の意味の無さを裏づけているが、それを追求する者はいない。

時計の針が午前0時を指すと、デイルームにいた患者たちからはまばらな拍手とともに、

「あけましておめでとー」

と言う声が半ば義務的にあがった。

「今年もよろしくね」

という夜勤の看護師の言葉は、若干皮肉めいても聞こえる。なぜなら、ここはなるべく早くオサラバしたい場所だからだ。

とある患者が看護師に何気なく、

「2007年、か。なんだか素数みたいな年数だね」

と言ったが、それに「違う」と即答したのは他でもない征二だ。

「2007は2+7=9で3の倍数。これから訪れる年で素数は、2011年」

あまりの計算の速さに、その患者と看護師は舌を巻いた。

「あ、あぁ、そう。ありがとう」
「素数の世界では、人は生きられないよ」

今年も、こんな調子なんだろうか? まぁ、年が変わったところで彼にとって何が変わるわけでもないのだろう。

麻衣子は新年など祝う気になれず、とうに眠りについていた。

2007年、第一総合病院精神科A病棟の一年、その静かな幕開けだった。