第三群  再 会

「はい、背筋を伸ばして、深呼吸!」

正月の騒がしさも一段落した 1月13日、理学療法士(PT)が、病棟まで出向いて患者たちに体操を指導している。いつもの光景だ。

PTは件の音楽療法士同様、どこか上から目線で、患者たちをあやすような口調だが、これも残念ながらありがちな光景である。一般に、そういった勘違いをしている「専門職」と呼ばれる有資格者は腐るほどいるのだ。

真水は朝からそわそわと、仕事もそぞろに上の空で電子カルテに向かっていた。

「白田先生、どうしたんですか?」

思った疑問をそのまま口に出してきたのは、その日、日勤だった若手看護師の高橋美和だ。

「あ、いや。今日だな、って思ってるだけです」
「ああ、あのお騒がせアイドルの記者会見?」
「は?」
「他にニュース無いのかな、って感じですよね。そんなに気になるならデイルームにいらしたらどうですか? 皆さん、まだ体操中ですけど」
「えっと……」

真水は口下手なのだろうか、よく誤解を受ける。美和は構わず、

「でもあのドラマの清楚な主役が、あんなスキャンダル起こすなんて。世も末、ですかねー」

真水には何のことだかさっぱりわからない。このままここで実のない話をしていてもしょうがないので、気を紛らわせるために席を立った。

デイルームに姿を見せた途端、PTが駆け寄ってきた。

「あ、白田先生。聞いてくださいよ、工藤さんも樋野さんも、相変わらず体操に参加してくれないんです」

見れば、征二は窓辺で何やら数字を数えているし(おそらく羊の数だ)、麻衣子は不機嫌そうな顔でイスの上に体操座りをしている。

PTの鼻息の荒い報告はどうでもよくて、真水は麻衣子の様子が気になった。

「樋野さん。何かあった?」
「……別に」

これではまるで何かがあった、と言っているようなものだ。

「もしかして、後藤さんのことかな」
「センセ。男のくせに勘が良すぎ」
「褒められてるの?」
「そう思いたければ、どーぞ」

真水はどういうリアクションをしたらいいのかわからず、困って腕を組んだ。これは本人の自覚のない癖だ。

後藤晶子は、正月明けにこの病棟から去った。お友達になったかと思えば、あっけなくサヨナラだ。挨拶もできず、いきなりいなくなってしまった。

「つまんない」
「……そっか」

真水は、晶子の処遇の行方を知っている。彼女は退院したわけではなく、閉鎖病棟に移ったのだ。年始早々、外泊先の自宅で、手首を深く切り、救急車が呼ばれる騒ぎになった。幸い、命に別状はなかったが、親からの強い希望で閉鎖病棟送りになった。とても麻衣子には言えない。

「指先の調子はどう?」
「変わんないよ。何にも」
「そっか」

真水はちょこっと首を傾げて、

「痛むようなら、いつでも声をかけてくださいね」
「大丈夫。大丈夫だから」

声をかけるな、ということだろう。

「じゃあ、僕はこれで」

デイルームには、先程からPTの意味無く威圧的な声が響いている。

「はい、屈伸したら次は、アキレス腱をのばしてッ!」