第四群 曇 天

今にも泣き出しそうな曇天の下で、友人を見送ることになった。

彼は、静かに息を引き取った。

無力さに、その場にいた二人は打ちひしがれた。

小湊浩之は、先天性の心臓の病で二十歳まで生きられればいい方だと医師から言われていた。

スポーツを禁じられていた彼の一番の楽しみは、スペインサッカーリーグ・リーガエスパニョーラを観戦することだった。

彼はファンタジスタと称賛されるプロ選手たちの華麗な技に、心奪われた。彼は特にバルセロナのファンで、赤いレプリカのユニフォームを大事にしていた。

二十歳の誕生日を迎えるその日、彼は言った。

「一度でいいから、思い切りサッカーがしたい」。

大人は誰も、その言葉を真に受けなかった。ただ、彼の幼馴染だった工藤俊一と黒峯羊子を除いては。

見ただけでは何もわからない。浩之の体にある心臓が、さながら時限爆弾のように脈打っていることなど。

俊一と羊子は、決意して彼を病棟から連れ出した。

冬の日の出来事だった。「一度でいいから」、その言葉通り、浩之の人生でサッカーをしたのはそれが最後になった。

ハーフに入る直前だった。3人でとはいえ、心からプレーを楽しんでいた浩之の表情が、突然凍りついた。そして、そのまま為す術なく倒れ込んだ。

「浩之!」

俊一と羊子は浩之に駆け寄った。切れ切れの息で、浩之は、うっすら目に涙を浮かべていた。

「……俊、ヨーコ。ありがと」

どこまでも、曇天の日の出来事だった。