第四群 曇 天

話を聞いた麻衣子は、どう返答していいのか分からず、

「……そうなんだ」

とだけ言った。

「ごめんなさいね、いきなり暗い話して」
「でも、なんで?」
「『なんで』って?」
「2つのイミで。なんで、そうなるってわかてって連れ出したの?」

羊子は伏し目がちなった。

「どちらにしろ、長くなかったからよ。願いを叶えてあげたかった」
「……そっか」
「もう一つは?」
「うーん」

麻衣子は、首を傾げた。

「なんでその話を、今、したの?」

自然と言えば自然な質問だろう。しかし、羊子の心中は穏やかではない。

「そうね。麻衣子ちゃん、運命って信じる?」
「へ?」
「因果応報、とかそういう類の」

麻衣子はいつもと羊子の様子が違うのを察し、

「そうだね、一応、無いことないとは思う、けど」

と曖昧な返答をした。

「羊子さんらしくないね、なんだか」
「そう、かしら。……そうかもね」

まるで独り言だ。

過去は何処までも過去なのだ。縋ろうがこだわろうが、変えられない。決して変わらない。

しかし、過去の処し方によっては、未来に影響を及ぼすことも多々ある。そして人はそれを「運命」だと呼びたがる。

小湊浩之は確かに、あの曇天の日に逝った。この目で見届けさえした。けれど、彼は確かに今、ここに存在している。

「羊子さん。コーヒー冷めちゃうよ」

麻衣子に話しかけられて、羊子ははっとした。

そんなこと、あるわけがない。こんな場所に、居るわけない。ただの人違いだ。

「ごめんなさいね。せっかくのデートなのに」

そう言って、コーヒーに口をつけた。

「うーん、まぁまぁ、かな」
「冷めちゃったからだよ」
「それもそっか」

羊子は非常に複雑な心境だったが、それを押し殺して苦笑した。

―――ただの、人違い?