話を聞いた麻衣子は、どう返答していいのか分からず、
「……そうなんだ」
とだけ言った。
「ごめんなさいね、いきなり暗い話して」
「でも、なんで?」
「『なんで』って?」
「2つのイミで。なんで、そうなるってわかてって連れ出したの?」
羊子は伏し目がちなった。
「どちらにしろ、長くなかったからよ。願いを叶えてあげたかった」
「……そっか」
「もう一つは?」
「うーん」
麻衣子は、首を傾げた。
「なんでその話を、今、したの?」
自然と言えば自然な質問だろう。しかし、羊子の心中は穏やかではない。
「そうね。麻衣子ちゃん、運命って信じる?」
「へ?」
「因果応報、とかそういう類の」
麻衣子はいつもと羊子の様子が違うのを察し、
「そうだね、一応、無いことないとは思う、けど」
と曖昧な返答をした。
「羊子さんらしくないね、なんだか」
「そう、かしら。……そうかもね」
まるで独り言だ。
過去は何処までも過去なのだ。縋ろうがこだわろうが、変えられない。決して変わらない。
しかし、過去の処し方によっては、未来に影響を及ぼすことも多々ある。そして人はそれを「運命」だと呼びたがる。
小湊浩之は確かに、あの曇天の日に逝った。この目で見届けさえした。けれど、彼は確かに今、ここに存在している。
「羊子さん。コーヒー冷めちゃうよ」
麻衣子に話しかけられて、羊子ははっとした。
そんなこと、あるわけがない。こんな場所に、居るわけない。ただの人違いだ。
「ごめんなさいね。せっかくのデートなのに」
そう言って、コーヒーに口をつけた。
「うーん、まぁまぁ、かな」
「冷めちゃったからだよ」
「それもそっか」
羊子は非常に複雑な心境だったが、それを押し殺して苦笑した。
―――ただの、人違い?