今日も、あの日の様な曇天だ。
「運命、ね。つまらないわ」
「物事を片付けるのにもってこいの言葉だね」
麻衣子もそう思っている。いや、身を以て実感している。
黒蝶への変化が運命だなんて言われても、納得いくわけがない。
「指先。見せてくれる?」
「ははぁ、観察だね?」
「そ。一応診察って言って欲しいけど」
「どっちでもいいじゃん。変わらないよ」
「そうね」
そう微笑んで、麻衣子の指先を見た羊子は、しばし黙してから、
「……進んでる、わね」
「うん。3匹目がこの間飛んでいったよ」
「……そう。痛かったでしょうね」
羊子は力なく首を横に降った。
「ごめんなさい。何もできなくて」
「羊子さんが謝ることじゃないよ」
医師としての無力さ、人としての軽薄さ、それらを、羊子は麻衣子を通じて感じる。
黒蝶は飛んでいく。麻衣子の一部は、勝手に自由を得て飛んでいく。
しかし、それが、切断されて発見された。
それは果たして、自由に対する侮辱か?